3,山守と竜(3)

「竜は、『どうにかまだ生きている』だそうですよ、長老」
 ミシディアに戻って仕事の報告をしながらわたしはしらじらしく言った。
「ほっほ、まだ死んでおらんかったか」
 長老はわたしの非難めいた声音を完全に無視してあごひげを撫でている。
 本物の竜がいると思ってどれだけわたしが恐怖したか、この方はご存知ないのだ。
「・・・長老?」
 わたしはジト目を長老に向ける。
「竜と竜騎士は別物だと思うのですけれど?」
「そうかの? 私が若かった頃にはまだ飛竜がたくさんいたからのー、竜と竜騎士なんてふたつでひとつみたいなもんじゃったわい。すまんのう」
 すまんのう、などと言うわりにはまったく謝罪の念を感じられない態度で長老は「ふぉっふぉっ」と笑った。
 ・・・やめよう。この長老相手に口では絶対に勝てない。
「・・・で? あの竜はどう扱えばよろしいので? ご本人は放っておいてくれとおっしゃってましたが」
 むすっとしながらわたしが尋ねると、長老は「ふむ」とすこし考えてから言った。
「やつがそう言うなら放っておいてやるがよい。やつがあの山で修行をすることは私も許可しておる。・・・ただ」
「ただ・・・?」
 長老の「ただ」の後にはどうせろくな話が続かないような気がしてわたしは身構えた。
「やつの様子だけ、時々でいいから私に報告してくれんかの」
 だから長老のその言葉はわたしにとって意外だった。
 もっと無理難題をふっかけられるかと思っていたのだ。
「様子を見て・・・報告するだけでいいんですね?」
「うむ」
 それなら大した手間じゃない。
 山の調査に行ったついでに偶然カインさんと会えた時などに報告すればいいだけの話だ。
 なぜ長老がカインさんのことを気にするのか不思議にも思ったけれど、きっと修行を許した立場なので無事にやれているかどうか心配なのだろう。
「わかりました」
 わたしが頷くと長老は「それから」と続けた。
「やつのことは好きにさせておけばよい。・・・じゃが、もしおぬしがやってもいいと思うなら、たまにはやつに話しかけてやってくれんか」
「・・・なぜです? あの方、あまりお喋りはお好きでないように見受けましたけれど」
「それもそうなのじゃが・・・まあ、嫌なら様子を窺うだけでもよい」
 長老でもうまく言葉に表現できないことがあるのだろうか。
 珍しく歯切れ悪くそう言うと、長老はわたしにメモ帳を返してきた。
 今日の報告会は終わりだという合図だ。
「・・・わかりました。わたしももう少しお話したいと思っていたのでちょうど良かったです。あの方、昔お会いしたことがありますので」
 別段、長老の申し出が嫌だったわけではないので、わたしは素直にそう言った。
 すると長老は嬉しそうに目尻を細めて「ありがとう」と言ってくれた。
 正直、試練の山への行き帰りは時間がかかって大変だけれど、こうして長老に感謝されるとすべてが報われる気がした。
 やっぱり、人は誰かに必要とされて生きているのだ。

 →次のページへ進む

UP