5,邪魔には、ならん(3)

 家に着くなりわたしは火照った頬で枕に突っ伏した。
 そのままうつぶせの姿勢でぎゅっと枕を抱きしめる。
「・・・・・・」
 きつく目を閉じても、網膜に焼きついた竜騎士のあの端正な顔が離れない。
「~~~!!!」
 叫びたくなるような衝動がわたしの胸を締め付ける。
 わたしは足をばたばたさせながら声にならない叫びを上げた。
 今までは表情は兜に隠れて見えなかったからあまり気にしていなかったけど、素顔を見てみるとやはりおとなの男性なのだと思い知らされた。
「カインさんっておいくつだったかしら・・・」
 確か昔、セシルさんはカインさんのことをの『ひとつ上の親友だ』と言っていた。
「披露宴の時セシルさんは二十歳でしたわね・・・ということはあれから約五年だからカインさんは今年で二十六歳?」
 十歳も上なんだ・・・。
 おとなびて見えるはずだ。
 自分なんかカインさんから見れば本当に子どもなんだろうな。
 十歳という年の差は、決して埋まることのない溝、もしくは決して超えられない壁のような気がして気が遠くなる。
 じゅっさい・・・。
「・・・ってわたしってば何考えてるの! きゃー! きゃーっ!!」
 突如わたしは我に返り、枕をぼふぼふ叩いた。
 自分の中のこそばゆい考えに顔から火炎放射が出そうだ。
「うるせーな! 何ギャーギャー言ってんだよ!」
 と、そこへ勢いよくドアが開き、眉間に皺を寄せたパロムが入って来た。
「あ、あらパロム。帰ってたの」
 わたしは急に平静を装い、何事もなかったかのように居住いを正した。
 弟に対してはさんざん偉そうなことを言ってきた手前、浮かれている自分の姿を見せるのは若干抵抗があったのだ。
 パロムは定職を得たわたしとは違っていつもどこかにふらふらと出かけている。
 以前は毎日問いただしていたのだけど、次第に鬱陶しそうにはぐらかすようになったので今はもう訊かないことにしている。
 パロムはジト目でわたしを見るなり言った。
「・・・なーんか、楽しそうだな?」
「そ、そう? 仕事がやりがいあるからかしらね??」
 まったく、妙なところで鋭いんだから!
 わたしはそう取り繕ったが、パロムの目はますます懐疑的になった。
「今日は仕事は休みだろ? 何でローブ着てんだよ」
 ああっ、ズボラなくせに何わたしのスケジュールなんかちゃっかり覚えてくれてるのよ!
「休日返上よ、いいでしょ別にっ」
 上手く誤魔化せたとも思えないが、パロムは「ふーん」と言うとどうにか引き下がってくれた。
 その目はいまだ何か探るような目だったけれど。
「ま、いーや! 今朝焼いてたパンの行方なんか訊かずにおいてやるよ!」
 にやにやしながら捨て台詞を置いて、パロムは部屋を出て行った。
 き、気付かれてたんだ!
 パロムに見つからないよう、朝早く起きて仕込んでたのに!
「あああ・・・失敗したわ・・・」
 わたしは思わず頭を抱える。
 別段、パロムの恋愛話は片手じゃ足りないくらい聞いていたからわたしだけ隠す必要なんてまったくないのだけど。
 それでも、試練の山に住む十歳も年上の竜騎士に執心しているなどということは、我ながらとてつもなく恥ずかしいことのような気がしてならなかったのだ。

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