7,酔っぱらいの戯言(1)

– Cain Side –

 俺は苛つく感情を抑えようともせずに槍を振るった。
 伸び放題の草木がばらばらと地面に転がる。
「くそっ・・・! 俺はまだローザのことをふっ切れていないのか・・・!!」
 あの少女が『ローザ』という名を出した瞬間、俺の中に黒い闇が広がった。
 いったい何年、何十年苦しめばあの闇から自分は解放されるのだろうか。
 竜騎士の名門に生まれた自分と、貴族令嬢のローザ。
 親同士が縁を取り持とうとしていたせいもあって俺は自然とその気になっていたが、ローザが見ていたのは俺ではなく親友のセシルだった。
 俺と違い孤児だったセシルに対しローザの母親はいい顔をしていなかったが、それでもローザはやつのことを追い続けていた。
 日に日に美しくなるローザへの恋慕とセシルへの嫉妬は次第に俺の中で膨れていった。
 ひとときもセシルから俺になびこうとしなかったローザ。
 俺に言い寄ってくる女は少なくはなかったから鬱憤を晴らすためだけにその女たちを抱いたこともある。
 だがそれは余計に俺の渇きを増大させ、ますます自己嫌悪に陥らせるだけだった。
 セシルに対する憤りをおぼえたのはやつが暗黒騎士になった頃だ。
 一途にセシルを愛するローザを、やつは暗黒騎士だからと受け入れなかったのだ。
 あの時から俺の中には嫉妬、怒り、恋慕、憤りなどが複雑に絡み合った負の感情が深く根を張り、さらにたちの悪いことに友情というイバラが俺をがんじがらめにし始めた。
 俺の中に巣食った闇。
 ミストの村で爆発に巻き込まれた後、気が付くとその闇にはもう『別のもの』が住んでいた。
 だがゴルベーザの呪縛が解け『別のもの』がいなくなった今もなお、闇だけはしっかりと俺の中に残っているらしい。
 まったくなんというしつこさだろう。
 その闇を祓うため、俺は月の戦役の後ひとり修行の旅に出た。
 世界各地を移ろい、安住の地を求めて四年が経った頃俺は身もこころも疲れ果てていた。
 そして――。
「・・・何をつまらんことを思い出しているんだ、俺は・・・」
 俺ははっとして右腕を強く握りしめた。
 右袖の下に刻まれた自戒のしるしが俺を現実に呼び戻す。
 ローザのことを自分で思い出すぶんにはまだましだ。
 だが、俺の中の闇は他人にローザへの恋慕を掘り返されるのは我慢のならないことらしかった。
 ローザの名を出されることくらい気にも留めたくない一方で、それに過剰に反応しようとする自分がいた。
 そいつは、平静を保とうとする俺を差し置いて声を荒げた。
 怯えたポロムの顔が目に浮かぶ。
 いまだ己の中に巣食う闇を祓えない自分に俺は心底嫌気がさした。
 何が楽しいのか分からないが毎日飽きもせずに世話を焼いてくる少女。
 どうやら自分には害にならないと分かったので好きにさせておいたが。
 あれほど怯えさせてしまっては、きっと彼女が俺に会いに来ることはもうないだろう。

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