7,酔っぱらいの戯言(3)

「・・・何をやっているんだ、俺は・・・」
 コテージの外でしゃがみこみ、俺は長い前髪を乱暴に掴んだ。
「くそっ・・・」
 あの少女を、いつもと違う目で見てしまった自分がいた。
 彼女から手を伸ばしてきたとはいえ、躊躇もなくその手を握ってしまったことがいい証明だ。
「十も下の子どもだぞ・・・!」
 ともすれば自分が何かしでかしてしまうのではないかと直感的に悟った俺は、頭を冷やすべく彼女の傍から離れた。
 妙な火照りが頭から離れない。
 山頂の風を浴び、気持ちを落ちつける。
「優しい・・・か。この俺が」
 そんなことを人に言われたのは初めてのような気がする。
 今までそんなものセシルの専売特許だと思っていたし、そういう風に振る舞ったつもりもなかった。
 だが彼女は言った。
『あなたは・・・こんなにもお優しい方なのに・・・』
 と。
「ふっ・・・馬鹿馬鹿しい。所詮、酔っぱらいの戯言だ」
 自虐的に俺は笑う。
 そうだ、酔っぱらいの言うことほど当てにならないものはないのだ。
 そう思い込まなければ、あの熱っぽい菫色の瞳を忘れることができそうになかった。
 あの少女を見る目が変わるということは、同時にある種恐ろしいことでもあった。
 ものごころついて以来、ずっとローザを追っていた自分。
 セシルを恨んだのも敵にいいように利用されたのも、すべてはローザを想う気持ちが募ってのことだった。
 それは若かった俺の一部を形成し、まるで狂信的な宗教か何かのように俺を突き動かした。
 そんな俺の根底に横たわる暗く強固な信念の中にあの少女を迎え入れるとどうなってしまうのか。
 消し去りたい信念のはずなのに、自分の中に脈々と根を張ったその根幹が変わってしまうことは自分が自分でなくなってしまうようで恐ろしく感じられた。
 ・・・少し、距離を置いた方がいいのかもしれん。
 彼女を見る俺の目が変わってしまう前に。
 風が、金糸の髪をさらさらと揺らしていった。

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