12,闇の足音(2)

– Porom Side –

「長老は、すべてご存知だったんですね、カインさんのこと」
 数日後、わたしは帰り際に長老に言った。
 カインさんの手首の傷痕、一度は命を断とうとした暗い過去。
 わたしは何にも知らなかった。
 責めるわけじゃないけれど、わたしだけが知らなかったみたいですこし寂しい思いだった。
「ん・・・? なんじゃポロム、聞いたのか」
「カインさんが全部話してくれました」
 カインさんが包み隠さずわたしに話してくれたのはすごく嬉しかった。
 でも同時に、わたしは長老にいいように使われていたことに気付いてしまった。
「だからわたしにカインさんの様子を探るように仰ったんですね? 彼が再び命を断とうとしたり、闇を増大させていないか見張るために」
「ほっほ、そう思うてくれても構わん。おぬしならうまくやれると思うておった」
「・・・なぜです?」
「・・・ふたりとも寂しがり屋だからじゃよ。人前ではひとりでも生きてゆけると強がるくせに、そのこころの底では誰よりも人のあたたかさを求めておる。あの男は少々偏屈じゃが、おぬしとなら話もできるじゃろうと思うておった」
 長老は笑いながら話しているけれどわたしは少々呆れてしまった。
 わたしが危険な目に遭いやしないかなど考えなかったのだろうか、このお方は・・・。
「じゃが、まさかあの朴念仁が傷のことまでおぬしに話すとはのう・・・いやはや、人間丸くなるもんじゃな」
 ほっほっほ、と長老は肩を揺らして愉快そうに笑った。
「んもう、長老? あの方がもし悪い方だったら笑いごとじゃありませんわ!」
 長老がわたしを軽々しくカインさんのもとに派遣したのが気に入らなくて、わたしは腰に手を当てて頬を膨らせた。
 まったく、カインさんが穏やかな方だったからよかったものの、軽率すぎるったらありゃしない。
 何かあってからでは遅いのだ。
「おや、やつはそんな悪人ではないぞ? わしだって数日看病していればそれくらいは分かるからおぬしに行かせたのじゃ。長老の目を見くびるでないぞ?」
「・・・別に見くびってません」
「それに、おぬしが一番よく分かっているのではないかな? やつがそんな人間ではないと」
「それは・・・まあ、そうですけど」
 それでも何だか納得がいかなくてわたしは唇を尖らせた。
 もちろん今はカインさんが危険な人だなんて欠片も思っていないのだけど。
 むしろ、わたしが知る中では一番素敵な方だと・・・。
 ああ、そんなことを考えると頬が熱くなってしまった。
「ともかく、何があっても彼を信じてやりなさい。彼は人の手のぬくもりを知らなすぎる・・・彼が困っている時には手を差し伸べてやりなさい。それがやつへの一番の特効薬じゃ」
「・・・はい」
 わたしの方こそ助けられてばかりなんだけどな、と内心思いつつわたしは頷いた。
 ・・・きっと長老はとうに勘付いてらっしゃるのね、わたしの中の恋心に。

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