– Porom Side –
それ以来わたしが夜ひとりで帰る時はカインさんが送ってくれるようになった。
相変わらずカインさんは愛想が無くて無口だけど優しくてかっこいい。
わたしの中に巣食い始めた不安にできるだけ目を向けないようにして、わたしはその幸せを享受していた。
そんなある日のこと。
カインさんのコテージに、思いもかけない来客があったのだ。
それはわたしがコテージの中で食器を拭いていた時のことだった。
何か、男女がこそこそと話し合うような声が扉の向こうから聞こえてきたのだ。
やがてそのコソコソ話は止み、ついに扉がドンドンとノックされた。
どうしよう、カインさんはいないのに。
わたしが出てもいいのかしら?
もう一度ドンドンと扉が叩かれた後に聞こえてきたのはすこしかすれたような男性の声だった。
「おいカイン? いねーのか? エッジ様が来てやったぞ」
エッジさん!? あの、エブラーナ王の!?
「カインー? 長老様に教えてもらって来たんだけど、いるー?」
この声はリディアさん?
このおふたりなら顔見知りだから大丈夫だよね?
「お久しぶりです!」
わたしは満面の笑みで扉を開けた。
「おーい、カイ・・・」
扉を開けると、そこには懐かしいおふたりの姿があった。
でも、エッジさんの動きが止まっている。
リディアさんもぽかんとして目をぱちぱちさせていた。
「・・・悪ィ。間違えたみてーだ」
「そうみたいだねえ・・・」
そしてふたりは背を向けてしまった。
そうだ、わたしは幻界に行っている間に六歳年をとってしまったから分かってもらえなくても当然なんだった。
「あのっ! わたしポロムです! あの時幻界に連れて行っていただいた、白魔道士のポロムです!」
慌てて彼らを呼びとめると、ふたりとも驚いたように声を上げた。
「えぇー!? ポロムちゃん、綺麗になったねえ!!」
「こりゃーおったまげたぜ・・・!」
目を丸くするふたりにわたしは幻界で六年の修業期間をもらって戻ってきたことを伝えると、昔からの仲間かのように喜んでくれた。
「リディアさんのおかげです! 本当にありがとうございました」
「ううん、わたしは紹介しただけだもの。ポロムちゃんががんばったんだよ」
そう言って笑ってくれたリディアさんがすごく可愛くて、わたしも嬉しくなってしまう。
エッジさんが惚れ込むのも無理はないなぁと納得できる。
「おい、ところでよ、カインのヤツはどうした? このコテージにいるって聞いたんだが」
「あ、たぶんそろそろ戻ってくると思うんですけど・・・ちょっと探してきますね」
エッジさんの問いに答えてからわたしは駆け出した。
ふたりが何だか不思議そうに顔を見合わせたのは、なぜだろう??
カインさんはすぐに見つかり(というか空から降ってきた)、わたしたちはコテージに戻った。
「よっ! 生きてんのか?」
コテージに入り、エッジさんは遠慮もなく寝台にどっかと腰かけるとカインさんに言った。
「何とかな」
答えるカインさんもどことなく嬉しそうだ。
リディアさんは椅子にちょこんと腰かけてテーブルに腕を乗せた。
「まさかカインがこんなところにいるなんてねー」
「一年近く前からここから動いていないな。それまでは転々としていたんだが」
「俺はオメーなんかもう闇に食われて死んじまったかと思ったぜ」
「エッジ! 言い過ぎでしょー」
「フッ、俺はお前などもうリディアに愛想つかされたのではないかと思っていたが」
「何だとー!? テメーだけには言われたくねーな、この恋愛オンチが!」
「恋愛オンチ! あはははははは!」
「・・・・・・」
ああ、さすが共に旅をしてきた仲間って感じだ。
息が合っている。
ちょっと羨ましかったけどあまり邪魔をしないほうがいいような気がして、わたしはカインさんに申し出た。
「わたし、お茶の用意しますね」
「ああ、頼む」
また一瞬エッジさんとリディアさんが不思議そうな顔をしていたけれどわたしはすぐに準備にとりかかった。
三人の久々の再会を喜ぶ会話を背で聞きながら、何がどこにあるかもうとっくに把握しているわたしは手早くお湯を沸かし、カップにお茶を注いでテーブルに並べた。
「お、わりーな」
「ありがとう、ポロムちゃん」
「いいえ」
そしてわたしは自分の荷物を持ち上げてカインさんに言った。
「じゃあわたし帰りますね」
カインさんもわたしがいない方が思い出話に花を咲かせられるだろう。
そもそもエッジさんたちだってカインさんに会いに来たのだし。
「ひとりで帰れるか」
「はい、まだ明るいから大丈夫です」
そう言ってにこっと笑うと、わたしはコテージから外に出てテレポを唱えた。
去り際に見えた玄関口では三人が見送ってくれていた。
良かったね、カインさん。
お友達が遊びに来てくれて。
今日はしっかり楽しんでくださいね。
そんなことを考えながら早々に下山したわたしは、その後の彼らの会話なんて知りもしなかったのだ・・・。
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