9,来客(3)

 何となく外に出る気が起きず、俺は漠然と天井を見つめる。
 知らぬ間にきれいになっていた天井。
 そういえばポロムがレビテトを使いながら掃除をしたとか言っていたな。
「・・・ポロム、か」
 考えなければならないのか?
『何でもねーのにここまでしてくれるコがいるかよ!!!』
 エッジの怒声が蘇る。
『エッジの言う通り、よく考えてあげたら? カインにとってポロムちゃんは何なのか、ポロムちゃんにとってカインは何なのか・・・この先どうなりたいのか』
 リディアの、心配そうな、真面目な声が蘇る。
「あいつにとっての俺だと・・・? 分かるか、そんなもん」
 人のこころの中など読めるわけがない。
 そんなことができるやつはエスパーか何かだ。
「だが・・・『考えろ』、と言っていたな・・・」
 分かってやれ、ではなく、考えろ、と。
 あいつにとっての俺は、何なんだろうか。
 どう映っているのだろうか。
 今まで別段気にしたこともなかったが、何か・・・エッジたちが言うようなものを俺に対して抱いているのだろうか。
 そんなものを抱かせるような行動を、俺はしているのだろうか。
 確かに、最初に比べてあいつを無下に扱うことは減ったように思う。
 話をしようと言われれば応じるし、共に飯を食おうと言われればそうしてきた。
 力仕事は助けてやっているし、敵に囲まれている時は加勢してやってきた。
 夜道をひとり帰る時はミシディアまで送ってやった。
 あいつが酒に酔って倒れてしまった時も――いささか近付きすぎたような気がせんでもないが――それなりに介抱してやった。
 だがそれらは、彼女の目にはどう映っていたのだろう?
 そして、俺にとってのポロムとは何なのだろうか。
 どうなりたいのだろうか。
 どうにかなりたいなどという考えは今までの俺にはなく、ただこのままの関係が続けばいいと思っていた。
 逆に言えば・・・このままの関係が続かない、つまり俺が彼女を傷つけるなどしてしまって彼女が俺の前から消えてしまうのは不本意なのかもしれない。
 彼女が来るまでの俺の世界には色が無く、常に『闇』と『死』と向き合うような日々だった。
 己の中の『闇』の払拭と安住の地を求めて世界をさまよった四年間。
 俺はそこに望みを見出すことができず、一度は『死』というものに誘惑されたことすらある。
 それは自戒のしるしとなって今でも俺の腕に残っている。
 だが彼女はそんな世界に色を与えた。
 いつもころころ表情を変えながら、笑ったり、泣いたり、照れたり、怒ったり、喜んだり。
 俺に『生』というものを思い出させてくれた。
 そして『闇』を恐れる俺に救いの言葉を与えてくれた。
 一度は彼女と距離を置こうと考えたこともあったが、彼女に救われてからというものの、それが出来ない自分がいる。
 むしろ、それまでよりも彼女を大切にしている自分がいる。
 俺は、彼女に傍にいてほしいのだろうか?
 リディアは、その気がないなら優しくするのは酷だと言っていた。
 ならば、いっそのことはっきりと突き放した方がいいのだろうか?
 俺はいったいどうすればいいのだろう。
 絡まった糸のような煩悶とした感情を持て余し、俺はこめかみを押さえた。

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