16,ふたりで街へ(1)

– Porom Side –

 その後、半乾きほどまで持ち直した白いローブを羽織り、わたしはカインさんに送ってもらってミシディア郊外まで戻ってきた。
 辺りには夜の帳が下り、雨がやんだ空には三日月が浮かんでいる。
「送ってくださって、ありがとうございました」
 いつものようにチョコボから降り、ぺこりと頭を下げる。
 いくら好き合う同士になったとはいっても、こういった感謝を忘れては駄目だと思うのだ。
「大したことはない」
 カインさんもいつも通りふっと笑う。
「じゃあ・・・また明日、ですね」
 カインさんがついに決断したセシルさんたちとの再会。
 その祝いの品を選ぶという大役をカインさんはわたしに任せてくれた。
 『また明日』――その響きが妙にくすぐったくて、わたしは照れながら言った。
 そう、離れるのは寂しいけれどまた明日会えるのだ。
 今までは会いたくてもそれを約束することなんてできなかった。
 でも、もうそんな遠慮はいらない。
 会いたければ会いたいと言える。
 まるで、恋人同士のように・・・。
 自分でそう思いながら『恋人だなんて!』とこころが躍った。
「ああ、また明日、な」
 カインさんの声も照れくさそうに聞こえたのは気のせいだろうか。
 浮かれたこころを落ち着かせ、わたしはカインさんを見えなくなるまで見送った。

「ああ・・・どうしよう、こっちがいいかしら、それともこっちの方が・・・」
 翌日、わたしは小一時間も前からクローゼットと姿見の間を行ったり来たりしていた。
 今日は休日。
 そして、何よりカインさんとお買い物に出かける日だ。
 セシルさんとローザさんへのお祝いの品を買いに行くのが目的だけど、街でカインさんと会うなんて初めてだから必要以上に気合が入ってしまう。
 それに・・・。
 昨日の会話を思い出して、わたしは今日何度目になるか分からない身悶えを覚えた。
『君が誰よりもいとおしい』
 今もこころに反芻するあの言葉は夢なんかじゃない。
『カインさんのことが、大好きです』
 わたしも秘め続けてきた想いを伝えることができた。
 カインさんがくれた優しい口づけも。
 夢なんかじゃないんだ。
「はぁ~」
 せつないため息が漏れ、顔が自然とにやける。
「相思相愛、なんだわ・・・」
 自分で言いながら照れくさい。
 すこしでも気を抜けばたちまち緩んでしまう頬を覆ってわたしはひとり悶えた。
「はっ、いけない。もう時間があまりないわ」
 慌ててハンガーのワンピースを手に取る。
 シンプルな白いニットのワンピースだ。
 もっとおしゃれにした方がいいかなとも悩んだけれど、あまりたくさん服は持っていないし妙に張り切っているように見えるのも何だか嫌だ。
 このワンピースと赤いマフラー、茶色のブーツ。
 このくらいがちょうどいいと思う。
 ようやく着るものを決めたわたしは急いで支度を始めた。
 髪の毛はいつもながらに外側にはねてしまっているけれどこればっかりはもうどうしようもない。
 内側にきれいにカーブしている弟の髪をうらやみつつ、わたしはいそいそと家を出た。

 待ち合わせ場所はいつもカインさんが送ってくれるミシディア郊外の森。
 すこし早目に着いたわたしは手鏡を取り出して身なりの最終チェックをした。
「うん、変じゃないわよね」
 ひとり頷き、手鏡をバッグにしまう。
 そうすると、妙に緊張してきた。
 初めて会う相手でもなかろうに、胸がドキドキする。
 どうしよう、最初に何を言おう?
 昨日あんなことがあって、どういう顔をすればいい?
 一切シミュレーションをしてこなかったことを今更ながらに後悔した。
 その時。
「待たせたな」
 軽装で槍だけ携えたカインさんがチョコボに乗って現れた。
 どきん、と心臓が跳ね上がる。
「い、いえ! さっき着いたばかりですわ!!」
 緊張で声が裏返りそうになりながらわたしは言った。
 どうしよう、どんな風に喋っていいのか分からない!
 カインさんはチョコボから降りると、カチコチになっているわたしを見て苦笑した。
「・・・そんなに固くなるな」
 そう言われても、そんなに優しい目で見られたら余計に緊張してしまう。
 けれど、カインさんの次の台詞にわたしは驚く。
「俺だって緊張しているんだ」
 すこし目線を逸らしてぶっきらぼうに言うカインさん。
 ・・・可愛い。
 わたしの変な緊張はふわっと解けていった。
「ふふ。参りましょ、カインさん!」
 わたしは笑顔で先に歩き始めた。
「ああ」
 カインさんもすぐに追いつく。
 そこで改めてわたしの恰好を眺めた。
「私服だと、だいぶ雰囲気が違うな」
「そ、そうですか??」
 気付いてもらえたのが嬉しくてわたしははにかむ。
 それを言ったら、カインさんこそ何を着てもかっこいいです!
 さすがにそんな風に言う勇気はなかったけれど。
「似合っている」
「えへへ・・・嬉しいです」
 頬が緩む。
 もう、今日は頬の緩みを止めることは諦めたほうがよさそうだ。
 ・・・デートみたい。
 森を進むわたしの足は羽根のように軽い。
 もしかしてデート『みたい』じゃなくて、本当にデートなのかしら?
 まわりの人たちから見たら、わたしたちってどういう風に見えるんだろう?
 仲間?
 こ、恋人同士とか??
 まさかきょうだいってことはないわよね・・・わたしのきょうだいはパロムだけだっていうことをミシディアのみんなが知ってるのを差し置いても、きょうだいは、ないわよね・・・?
 わたしはいわゆる『初デート』に胸をときめかせながら街へと向かった。

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