17,帰郷(3)

 来た時よりもすこしばかり日が傾いた街並みは昼間よりも多くの人でにぎわっていた。
 時折帯剣した警備兵の姿もあるが、物々しい雰囲気はかけらもなく人々には笑顔が溢れている。
 道端には小洒落た店が立ち並び、ウインドウごとに小さな人垣を作っていた。
 そのうちのとある店のウインドウに飾られたアクセサリーがふと俺の目に入ってきた。
 女物の髪飾り。
 以前なら見向きもしなかったものが、なぜ俺の足を止めたのだろう。
 脳裏に、はにかんだように笑う少女の姿が浮かぶ。
 そうか、ポロムがそうさせているのか。
 俺は店内へ足を踏み出した。
 中には色とりどりのペンダントやらブレスレットやらが飾ってあった。
 正直、俺には女物のアクセサリーの善し悪しなどさっぱり分からん。
 だが先程目にした髪飾りはポロムにとてもよく似合うのではないかという気がする。
 バロンが世界に誇る繊細な金細工に紫水晶のような石が嵌められた、決して派手に主張するわけではないが控えめな可愛らしさが確かに存在する髪飾り。
 脳内のポロムのイメージに合わせてみても充分似合っているように思う。
 眺めていると店員の男が近づいてきた。
「いらっしゃいませ、お求めですか?」
「ああ、この髪飾りを頼む」
「ありがとうございます、ではお包みいたしましょう」
 そう言って店員はカウンターの向こうで包装材を選び始めた。
 女物のアクセサリー店などにひとりで入ることなどなかった俺はどことなく居心地の悪さを感じてしまう。
 次の店員の質問はさらに俺を困らせた。
「ええっと、どなた宛てですか? ご家族かご友人か、それとも恋人ですか?」
 なぜそんなことを訊く!?
 俺は答えに詰まったが、どうやらそれによって包装材の種類が変わってくるらしく、答えないわけにはいかないらしい。
 家族か、友人か、それとも恋人か――だと?
 いったん咳払いをしてから俺はぼそりと答えた。
「こ・・・恋人、だ」
 言った瞬間身体がかっと熱くなる心地がした。
 なにをガキみたいな反応を、と自分で情けなくなるがどうしようもない。
 あの可憐な少女が正式に自分だけの恋人なのだと意識すると、どうにも痒いような浮かれたような心地がしてならなかった。
 代金を払い、品を受け取って俺はそそくさと店を出る。
 店員め、包装紙の上にハートのシールなんぞを貼りやがった。
 どんな顔をして渡せばよいのやら――気の利きすぎる店員がすこしばかり恨めしい気分に駆られる。
 恋人への土産物を買うなどという初体験に妙なむず痒さを感じながら俺はデビルロードへと足を向けた。
 久方ぶりの帰郷だというのにとんぼ返りになってしまったが、名残惜しくはない。
 なぜなら、これからはいつだって戻って来れるのだから――我が故郷、バロンに。

次のページへ進む

UP