18,闇の集結(2)

– Edge Side –

 一方その頃。
 エブラーナの執務室で書類の山に埋もれていたエッジは、ふと首筋に熱気のようなものを感じた。
「・・・・・・? 気のせいか」
 ミストの村のリディアのもとに遊びに行っていたうちに溜まりに溜まった書類のせいで、どうやら今夜はなかなか眠れそうもない。
 必死に印鑑を押し、ペンを走らせるエッジを、再びちりちりとした熱が襲う。
「何だ・・・?」
 さすがに気のせいではないと思い、エッジは顔を上げた。
 外は雨。
 とてもではないが暑さを感じる気候ではない。
「換気でもするか」
 雨を気にせず窓を開けようとエッジが立ち上がりかけたその時、低い声が響いた。

『・・・えるか・・・聞こえるか、・・・ジ・・・』

「!??」
 瞬時に懐からクナイを抜き放ち、低く姿勢を構える。
「何モンだ!!」
 鋭い眼光で辺りを見渡し、気配を探る。
 しかし動くものもなければわずかな気すら感じられない。

『エッジ・・・私だ、ルビ・・・テだ・・・』

「・・・ルビカンテ・・・!??」
 エッジは目を見開く。
 火のルビカンテ。
 エブラーナの仇にして最大の好敵手。
 だがしかし奴はこの手で屠ったはず・・・!
「バカ言ってんじゃねぇ! あいつはもうこの世にはいねーんだ!」
『・・・よく聞け・・・大事な、話だ・・・』
「うるせぇ! 死者の名を語るのもたいがいにしやがれ!!」
『確かに我々は一度死んだ・・・だが、無数の怨念が再び我らを地上に降臨させようとしている・・・』
「何だと・・・!?」
『私ももうじき怨念に飲み込まれるだろう・・・だから今のうちに、まだ私の武人としての意識が残っているうちにお前に伝えなければならないことがある・・・』
 ルビカンテと名乗った男の声は真剣そのものだ。
 状況がさっぱり飲み込めなかったが、その尋常ならぬ様子にエッジはすっと感情を落ちつける。
 頭に響く声に意識を集中させると、途切れ途切れだった低い声がいくぶん鮮明に聞こえた。
「・・・言ってみな。くだらねぇ話だったらぶちのめすぞ」
『フッ、相変わらず威勢のいい・・・』
「さっさと話せ! テメーは暑苦しいんだよ!」
 部屋が暑いわけでもないのに額から流れ落ちる汗に渋面になりながらエッジは悪態をついた。
『暑苦しい、か・・・。今でこそ私は炎を纏っているが、我々四天王とてもとはただの人間だったことを知っているか』
「何!?」
『最初はゴルベーザ様に従うただの部下にすぎなかったのだ・・・月へ行くという計画に夢を見出し、ゴルベーザ様のもとに集った単なる人間だったのだ』
「オメーらが、人間だっただと・・・?」
 エッジは眉をひそめた。
 ルビカンテやバルバリシアはまだいいとして、カイナッツォやスカルミリョーネなどとてもではないが人間になど見えやしない。
『疑問に思うのももっともだ・・・だが貴様も知っているだろう。人を、異形のものに変えるすべを持っていた男のことを・・・!』
「!!!」
 エッジの背筋がさあっと冷えた。
 忘れようもない、最後に見た両親のあの姿。
 エブラーナ王であり随一の実力を誇る忍者でもあった父には魔獣の牙と爪が生え。
 厳しくも優しかった美しき母は毒々しい悪魔へと姿を変え。
 エッジは自分の手がわなわなと震えるのを感じた。
 自ら両親にとどめを刺した、この両手。
 忘れかけていた、この怒り。
「・・・ルゲイエか・・・!!」
『そうだ・・・! 奴が、私たちを人外のものへと変貌させたのだ・・・!!』
 熱がひときわ強くなった。
 ルビカンテの怒りだろうか。
『数々の魔獣を使い、私たちは実験に次ぐ実験を重ねられた・・・その結果、この並外れた力を手にすることができたのだ。私以外の三人は喜んでいたがな・・・!』
「あんたは違うのかよ・・・?」
『・・・自分の実力ひとつで勝負するのが真の武人であろう』
「なるほどな・・・あんたらしい」
『だが我々も貴様らによって破れた。五年前、我々は確かに死んだのだ』
「なら今更こうしてお喋りしてやがるテメーは何者だ!?」
『怨念が・・・スカルミリョーネの怨念・・・カイナッツォの怨念・・・バルバリシアの怨念・・・そして我々の身体に組み込まれた、幾多の魔獣たちの怨念が我々を呼び起こしたのだ・・・!』
「怨念・・・!?」
『そうだ・・・。実体すら持たない怨念だ・・・だが! もうじき我々は集結しようとしている・・・次に月が満ちる時、試練の山に悪夢が舞い降りる!!!』
「お、おい! 集結したらどうなるってんだよ!??」
『強大な力となる・・・我々ひとりひとりの力など軽く凌駕する、四天王の融合体<ゲリュオン>となるのだ・・・!!』
「ゲリュオンだと・・・!!」
『時間がない・・・一刻も早くバロンの王に知らせ、迎撃準備を整えるのだ・・・! このままではこの星は滅ぶ・・・!!』
そこでルビカンテは苦しそうに呻いた。
 熱と、声が次第に遠ざかっていく。
『私も・・・これ以上は抑えられぬ・・・急げ・・・急ぐのだ・・・!!』
 そして、声は完全に止んだ。
 しとしとと軒を打つ雨垂れの音以外に静寂を破るものはない。
 書類の山の中で、エッジはひとり茫然と震えていた。
「四天王が・・・蘇るだと・・・!?」
 震える手を押さえ、エッジははるか遠い空を見つめた。

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