21,ゲリュオン降臨(2)

「クカカカカ・・・ついに、ついに蘇ったぞ・・・!」
 そう言って咆哮を上げたそれは、紛れもなくカイナッツォの声だった。
 けれどその外見はあまりにいびつ――ルビカンテの上半身にスカルミリョーネの巨大なつの、バルバリシアの脚が生え、さらに剣と盾を持ったカイナッツォの腕が付いていたのだ。
 融合と呼ぶのもおこがましいくらいの不完全な合体。
 それが、<ゲリュオン>の正体だった。
「・・・気味が悪いわ」
 隣でリディアさんが小さく囁く。
 堪らず声を上げたのはエッジさんだ。
「おいルビカンテ! 聞こえるか!? 何だそのナリは、テメーほどの武人が情けねえ!!」
 ところが返事はない。
 代わりに炎の息が吹きかけられ、エッジさんは素早く避けて舌打ちした。
 どうやら唯一理性的だったルビカンテの意識はもう消えてしまったようだ。
「フシュルルル・・・ルビカンテの余計な世話のせいで豪勢な出迎えだなぁ?」
 薄気味悪いこの声はスカルミリョーネに間違いない。
 以前カインさんの精神を乗っとろうとした、わたしにとっては特に許せない敵だ。
 それはカインさんにとっても同じらしく、カインさんは左手のホーリーランスをぶん、と振った。
「今度こそ息の根を止めてやるぞ、スカルミリョーネ!」
「フシュルルル・・・おやおや、貴様はあの時の竜騎士。また支配されにのこのこやって来たのか? 愚かな奴め・・・!」
「愚かなのはどっちか、思い知ることになるぞ?」
「ヒャハハハ、貴様の美味なる闇、また頂戴しよう!」
 するとゲリュオンは何か黒いもやを吐き出した。
 あの時、呪縛が解けたカインさんから抜け出て行った闇とそっくりなもやを!
「いけない!」
 わたしは咄嗟にカインさんの前に飛び出して杖を構えた。
「はあっ!!」
 そして白魔法の聖なる魔力を爆発させる。
 黒いもやは相殺されるようにかき消えた。
「もうカインさんにその手は効きませんっ! カインさんにはもうあなたなんかが付け入る闇はないんです!!」
「何ぃ・・・?」
 ゲリュオンがわたしをぎろりと睨む。
「おい、ポロム・・・」
 後ろのカインさんがわたしを制止しようとしたけれど、わたしはそのまま啖呵を切り続けた。
「カインさんはもう、あなたが知っているカインさんとは違うんですから! やれるもんならやってみなさい!!!」
 全身から力が湧き出る。
 魔力がほとばしる。
 カインさんを守りたい、夢中でそう思うとホーリーを唱えているわけでもないのにわたしの身体から白い光が放出された。
「・・・! これは・・・」
 背後で驚いたようなカインさんの声がしたのでちらりと振り向くと、何とカインさんのホーリーランスも同じように白く光り輝いていた。
 まるで聖なる力が共鳴し合うように。
「カイン、それ・・・」
 その神々しいような光の姿にセシルさんも驚きの声を上げた。
 光り輝く槍を携えたカインさんはまるで聖なる竜騎士。
 そう・・・まるで、暗黒騎士だったセシルさんが聖騎士になった時と同じ光景だった。
「力が・・・湧いてくる・・・?」
 カインさん自身も驚いたように自分の手を見つめていた。
「フシュルルル・・・まさか、こんなことがあり得るとはな・・・!」
「ふぅん、本当に闇は消えてしまったようね。その娘によって祓われた、と言ったほうが正確かしら」
 スカルミリョーネに続いてバルバリシアのつまらなそうな声が聞こえた。
「面白いじゃないの、聖竜騎士だなんて。変わったものね、カイン」
「フッ、どうやらそのようだ。もう小細工は通用せんぞ!」
 そう言ってカインさんはちゃき、と槍を構えた。
「ポロム、君のおかげだ。後は俺たちに任せて後方支援を頼む」
「はい!」
 言われてわたしはすぐに後列に戻った。
 かばわれていろ、という言い付けを守るためだ。
 するとゲリュオンの顔の部分がぐにゃりと歪み、青くて平たい顔が現れた。
「クカカカカ、元々スカルミリョーネの小技なんぞ必要ねぇんだよ。引っ込んでな!」
 ゲリュオンの青い腕が高らかに剣を掲げる。
「さあ、楽しい戦いの始まりだ!!!」
 こうして、空に轟くカイナッツォの咆哮とともに戦いの幕は開いたのだった。

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