21,ゲリュオン降臨(3)

 激戦を超える激戦だった。
 セシルさんが必死に敵の攻撃を引きつけ、リディアさんが連続魔フレアを唱え続ける。
 さらにカインさんが、ヤンさんから教わったという力を溜める方法を併用してジャンプする。
 エッジさんは素早さを活かして風魔手裏剣を投げたりアイテムでの素早いサポートをしたりなど走りっぱなしだ。
 わたしもわたしで、ケアルガでみんなを守ることだけで精一杯でホーリーを打つ余裕なんかない。
 主な攻撃はカインさんとリディアさんに任せてわたしは回復と補助に徹した。
 ローザさんは今までずっとこの役目を負ってきたのだわ・・・わたしでは及ばないかもしれないけれど、最善を尽くしてみせる!
 ゲリュオンの破壊力は凄まじく、結界に囲まれた試練の山はみるみるうちに瓦礫の山へと変化していった。
 スカルミリョーネの毒の息が空気を蝕み、バルバリシアの竜巻が体力を奪い、カイナッツォの大津波が頭上を飲み込み、ルビカンテの火燕流が身を焦がす。
 攻撃が凄まじいばかりか体力も底知れず、何度リディアさんのフレアを食らってもびくともしない。
 本当に勝てるんだろうか・・・
 こちらの体力気力が尽きたら、もうお終いだわ・・・
 不安が胸によぎった時、結界の一部に稲妻のような亀裂が入った!
 いけない、内部の衝撃が大きすぎて結界がもたないんだわ。
 この結界が破れてしまっては大地が焦土に覆われ、結界を作ってくれている皆さんも巻き添えを食ってしまう・・・!
「長老っ・・・!」
 わたしは祈るような気分で上空管制のファルコンを仰いだ。

– Palom Side –

 一方上空、ファルコンでは。
「おい長老、やばいって! ファブール班方向の結界にヒビが入ってる!!」
「分かっておる! むーう・・・」
 甲板に描かれた魔法陣に手を尽き、汗を垂らしながら魔力を送り続けるミンウ長老の姿があった。
 長引く戦闘に疲労の色が濃い。
「パロム、替われ! ワシは各班に伝言を伝える!」
「え、ちょ、ちょっと待ってくれよ、いきなりそんな・・・」
「何を言っとるか! お主をここに呼んだのはもとよりそのためじゃ!!」
「ええっ!?」
「できぬと申すか? トロイアの黒魔道士の先生殿には荷が重い、と?」
「・・・分かったよ、やりゃいいんだろ」
 渋面になって魔法陣に手のひらを下ろした少年――それはまさしく、パロムであった。
 ポロムの双子の弟でありミシディアの天才児と言われ育ったパロム。
 幻界での修行を積んだ後トロイアで働いていた彼が、今ファルコンの上に居た。
「良いか、バロン、ミシディア、トロイア、エブラーナ、ファブールの五つの班からの魔力がここに集っておる。お主はその魔力を感じ、わずかでも魔力の低い方へ己の魔力を放つのじゃ。そうして結界のバランスを保ち、強化する――それがこの管制の仕事じゃ」
「簡単に言ってくれるよ、まったく」
 ぶつくさ言いながらもパロムは長老と場所を入れ替わり、魔法陣についた指先に精神を集中させた。
「はっ!!」
 パロムが気を開放した瞬間、結界が爆発的に光り輝いた。
 雪が溶けて勢いを取り戻した滝のように、結界には魔力の流れが勢い良く瞬く。
「亀裂は、こっちだな・・・」
 ファブール班の方向にちらと目を向けた次の瞬間には先程のヒビまでもが消え失せていた。
「ほお・・・これほどとは! あっぱれじゃ、パロム!!」
 長いあごひげを撫でながら目を丸くした長老に、パロムはシニカルな笑みを向ける。
「へん、当然だぜっ!」
 そして小さく祈りを呟く。
「頼むぜ、セシルのあんちゃん、ポロム・・・!」
 船室から衣擦れの音とともに鈴の音のような声が飛んできたのはちょうどその時だった。
「長老、ひそひ草ですっ!」
 現れたのは、金髪に丈の長い神官服姿の少女。
 手には草むしりをした後かというくらいの山盛りの草を抱えていた。
「おお、ありがとうレオノーラ」
 長老はそのうちの五束だけを取り、残りは置いておくように優しくレオノーラに命じた。
「バカ、あんなに持ってくるヤツがいるかよ!」
「す、すみません、パロム」
 しおしおと小さくなるレオノーラにちっと舌打ちするパロム。
 レオノーラという名前の彼女は、トロイアの次期神官職を目指すために黒魔法が必要になりパロムに師事している、いわば生徒である。
 もっともレオノーラの方が二歳年上なので、ちょっとおかしな師弟関係ではあるのだが。
「ヤン殿、聞こえるか? こちらミンウじゃ。ファブール班の力がすこし弱まっておる、もうひと踏ん張りしてくれぬか!」
 ひそひ草を受け取った長老はさっそくファブール班と交信を始めた。
 魔力での管制はパロムに任せて各班への指示にあたることにしたようだ。
 心配そうに長老の背を見つめながらもパロムに近づいてきたのは見習い神官レオノーラだ。
「パロム、大丈夫ですか?」
 袖も身丈も余った神官服を引きずり、眉を八の字にしてパロムの顔をのぞき込む。
「な、何だよ、いきなり!」
 突然目の前に現れた可憐な顔に、パロムは魔法陣から手を離さないぎりぎりの程度に身を引いた。
「す、すみません、つい気になって・・・」
「大丈夫だから、そんなに近づくなっての! まったくもー」
 文句を言う時に上唇を尖らせるのはパロムの癖である。
 しかもそういう時はだいたい本気で怒っているわけではなく、どちらかというと我侭だったり照れ隠しだったりする場合が多い。
 実際この時も、わずかに紅潮した頬がそれを示していた。
「・・・すごいですね、こんなに大きな結界を制御できるなんて。さすがです」
「へん、朝飯前よ!」
 素直に賞賛されてパロムはふふんと鼻を鳴らした。
「オレの方は大丈夫だから、レオノーラは長老を手伝ってやってくれ。五つのひそひ草を使わないといけないからな」
「ハイ、わかりました!」
 役目を与えられたレオノーラは張り切って立ち上がる。
 その澄んだ碧眼はやる気の炎で燃えていた。
 まったく、調子のいいことだ――
 パロムは魔法陣に向き直って苦笑した。
 本当は、トロイアに置いてくるはずだった。
 この数カ月、パロムの指導の成果もあってレオノーラはもともと素質のある白魔法に加えて初歩の黒魔法も使えるようになった。
 とはいえ、彼女の魔法はまだ実戦には早すぎる。
 長老の命を受けて自分は結界の管制を手伝うことになったがレオノーラにはまだ危険すぎる。
 そう考えて、トロイアに置いてくるはずだった。
 けれど、そう伝えるとレオノーラは同行すると言って聞かなかった。
 子どものようにいやいやを繰り返し、ついには泣き疲れて眠ってしまうまで、レオノーラの抵抗は続いた。
 その翌日、一抹の胸の痛さを感じながらもパロムは迎えのファルコンに乗り込んだ。
 ところがミシディアに着いてみると・・・何とレオノーラがいるではないか!
 彼女曰く、『黒チョコボ便・超速達』の荷物に紛れて飛んできたのだという。
 ギサールの野菜の大箱に潜んでいた彼女は――それはもうものすごい匂いだったが――ふわふわの金髪に刺さった大量のギサールの葉を抜きもせずにつかつかとパロムに歩み寄って言い放った。
「わ、わたしはパロムの弟子です。どこまでもついて行くって、決めたんです!」
 そうまで言われてはさすがのパロムもうんと言わないわけにはいかなかった。
 雑用係くらいにはなるだろう、とついにはファルコンに共に乗り込むことになったのである。
 正直、ひそひ草の数をひと桁間違えたりなど有能な雑用係とは言えなかったが、それでも何とか役には立っている。
 そして今、長老の手伝いをするべく立ち上がったレオノーラはふと振り返って神妙な声で言った。
「パロム・・・無茶しないでくださいね」
 いつもののんびりした口調とは違う様子は、パロムの二つ上の女性相応のものであった。
「・・・ヘッ、まかせろやい」
 結界の光はぐんと強くなり、魔力の差異によって生じる斑も消え失せた。
 長い長いパロムの持久戦が、今ここに始まったのだ。

※補足
レオノーラ・・・FF4TAに登場した、パロムの良き生徒であり良き相棒となる女の子。パロムとの出会いはFF4のエンディングまで遡る。

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