22,ふたつの月(1)

– Another Moon Side –

 青白い、闇。
 明るいとも暗いとも言えない仄かな彩りの中、彼はひとり起き上がった。
 音はない。
 静けさだけが支配する、完璧な閉鎖空間。
 辺りを見回すと、今しがたまで自分が眠っていたようなポッドがたくさん並んでいた。
 男は何かを気にしたふうにポッドから出て部屋の出口へと向かう。
 くすんだ茶の混じった長い銀髪、上背があり体格もがっしりとした浅黒い身体。
 身には漆黒の衣をまとっていた。
 扉はパスワードでロックを解除するようになっていた。
 自分はこれを知っている――指は考えるよりも先に流暢に動き、操作パネルを次々と叩いてゆく。
 やがて、扉はあっさりと開いた。
 進んでゆくと、祭壇の上に紫色のローブが見えた。
 振り向いたその姿は、足元まで白い髭を伸ばした老人のものであった。
「起きたか、セオドール」
「ええ」
 黒衣の男は頷いた。
「セシルの声が……聞こえたので」
「やはりか」
「フースーヤ様も?」
「うむ」
 老人――フースーヤは渋面で首肯した。
 すべての状況を悟った表情だった。
「助けられませんか」
 男は哀願するように言う。
「セシルを……我が弟を」
 片手を胸に当て、静かながらも力強い声で。
 フースーヤは壇上から男を見下ろす。
「……贖罪のつもりか? セオドール――いや、ゴルベーザよ」
 黒衣の男はわずかに目元を歪めた。
 蒼き星でゴルベーザとして行った数々の所業がまざまざと思い起こされる。
 ゼロムスに操られていたとはいえ、許されざる数々の過ち。
「分かりません……」
 黒衣の男はすっと顔を上げた。
 曇りのない、澄んだ瞳だった。
「決して許されて良いなどとは思っていません。しかし、セシルは呼んでくれた……私を、兄と」
 月の中心核に男の声が低く響いた。
 反応するようにそこかしこがきらきらと光を放つ。
「兄が……弟の身を案じては、いけませんか」
 フースーヤは目尻にしわを寄せた。
 微笑んだのだ。
「何を躊躇うことがあろう……クルーヤもきっとそれを望んでおる」
「では……!」
 黒衣の男の表情が輝いた。
「うむ。我ら月の民の力を蒼き星に送るのだ。セオドール、祭壇へ」
「はい!」
 ふたりは祭壇の上に並ぶと高らかに両手を掲げた。
「精神を集中し、魔力に乗せて祈りを捧げるのだ!」
 四つの手のひらにちからが集う。
 それに呼応するかのように、祭壇の周囲のクリスタルが光を放ち始めた。
 そしてひとつひとつのクリスタルから小さなきらめきがふたりの上に集い、あかあかと輝く光球が生まれた。
「祈りをちからに! 蒼き星へ送るぞ!」
「いいですとも!」
 次の瞬間――彼らの居るところ、すなわちもうひとつの月は、白銀に瞬いた。

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