22,ふたつの月(3)

– Palom Side –

 一方その頃。
 上空のファルコンで結界を管制していたパロムに苦悶の汗が浮かんだ。
「……くっ!!!」
 先程までとは比べ物にならないほどのエネルギー量が結界の内側を打つ。
「な、何が起きやがった!??」
「パロム、ややややや山が!!」
「落ち着け! 何がどうなってる!?」
 甲板の縁で地上を見下ろしていたレオノーラはもつれる舌を必死に動かす。
「ゲゲゲゲリュオンが自爆しました! そ、それで試練の山が、粉々に……!!」
「何だって!??」
 ではこの魔法陣に置いた手のひらを通して伝わってくる計り知れない衝撃はゲリュオンの自爆の爆発力ということか。
 中にいるポロムたちの安否が頭をよぎり、パロムはぎりりと歯を食いしばった。
 駄目だ、今は結界を維持することに集中しなくては。
 これが破れれば、ミシディア中、いや世界中に戦火をばらまいてしまう!
「ちくしょう……!」
 結界の内圧がどんどん増してゆく。
 砕けた岩がぶつかり、温度は湧き立つほどに上りつめ、水という水が気化してゆくのが結界を通してありありと感じられる。
 衝撃は結界に多くの孔を穿ち、パロムの全魔力をもってしてもカバーできないほどに溢れ始めた。
「皆の者! こらえるのじゃ! これに耐えれば、戦は終わりじゃ!!!」
 背後で檄を飛ばす長老の声が聞こえる。
「バロン班、もっと力を強く! ミシディア班、第一隊はファブールの援護に向かえ!」
 五つのひそひ草を駆使して地上班への指示を飛ばしているのだ。
 地上の皆も頑張っているんだ――ここで自分が耐えなければ、何がミシディアの天才魔道士だ。
「ちくしょう、もってくれよ!!!」
 祈りに近いような思いで、パロムは渾身の魔力を指先に込めた。
 脂汗がどっと額に流れる。
 貼り付いた前髪から雫が落ちた。
 それを白いハンカチで拭ったのはレオノーラだ。
「パロム、大丈夫ですか」
「大丈夫に……してみせるっ!!」
 そう言い放つパロムの瞳は、いつもの不真面目な彼とはまったく違う強さをたたえていた。
 かつてレオノーラはこれほどまでに真剣な彼の顔を見たことがあっただろうか?
 レオノーラはぐっと唇を噛むと、パロムの正面にひざまずいた。
 そして白くて細い手を魔法陣へと下ろす。
「おい、何を……」
「わたしだって、魔道士のはしくれです」
 何かを決意した表情で、両の手をパロムの手の上に重ねた。
「わたしだけ、ただ見ているわけにはいきません!」
「やめろ! 結界のバランスをとるのがどんなに難しいか……!」
「いいえパロム! 白魔法と黒魔法の両方が使えるわたしならば、きっとできます!」
 止めようとするパロムの言葉を聞き入れず、レオノーラは手のひらに精神を集中させた。
 その途端、パロムの手を通じて、地上からの膨大な魔力の流れが衝撃波となって彼女を襲う。
 それでもわずかに目元を歪めただけで、彼女は手を放しはしなかった。
「パロムのお役に立ちたいんです……ほんのすこしでも」
 そう言って「えいっ!」と己の魔力を放出した。
 赤く輝いていた魔法陣にレオノーラの青が混ざる。
「レオノーラ……」
 上に重ねられた手のぬくもりから、体内にレオノーラの魔力が流れ込む。
 肩で息をしていたパロムに血色が戻った。
「まったく……勝手にトロイアを出たばかりか無茶しやがって……」
 パロムは左右非対称な苦笑いを浮かべて言った。
「神官失格だな」
「そうですね」
 早くも額に玉の汗を浮かべながらレオノーラが微笑む。
「だがな……オレの相棒としては合格だ!」
 俄然勢いを取り戻した魔力が、穿たれた結界の孔を次々とふさいでゆく。
 世界を戦火から守る結界は、ふたりの協力によって息を吹き返したのだった。

次のページへ進む

UP