23,エピローグ(3)

– Epilogue –

 後日。
 バロンの聖堂の控え室には可憐な若き花嫁の姿があった。
 綺麗にまとめられた紅茶色の髪に白い生花を挿しながら着付け担当の女性が微笑む。
「さあ、ポロム様。できましたよ」
 髪を結ってもらっている間じゅう目を閉じていたポロムは恐る恐る瞼を開ける。
「……わぁ……!」
 アンティーク調の大鏡に映った自分の姿を見て菫の瞳はより大きく見開かれた。
 プリンセスラインの純白のドレスはこれまでに着たどんな衣装よりも美しく、専門家の手によって施された化粧はポロムが元々持っている魅力をはっとするほどに引き立たせ、結い上げられた髪が戴くヴェールと小さなティアラは自分は花嫁なのだということを実感させた。
「これ……わたし……?」
 つけたこともないような色の頬紅や口紅に戸惑いつつもポロムは我が身の変身に見入っていた。
 華やか、されど決して派手ではなく、ポロムの素朴さや可愛らしさを重視してのものであると訊かずとも分かった。
「ふふふ、お美しゅうございますよ」
「嘘みたい……」
「さあ、旦那様にお披露目を」
「だ、だんなさま、って!!」
 呼び慣れない言葉に頬を染めながらポロムは椅子から立ち上がった。
 新郎との身長のバランスをとるため幾分高いヒールの靴を履いているのでいつもより視界が高い。
 隣の続き部屋では先に準備を終えたカインが待機している。
 この姿を見て彼は何と言うだろう? 胸の鼓動を感じつつポロムは控えめに扉をノックした。
「支度……終わりました」
 そしてそうっと扉を開ける。
 窓際で春の新緑を眺めていたカインはゆっくりとこちらに振り向いた。
 いつもの甲冑の闇色とは真逆の、純白にも似たシルバーグレーのフロックコート。
 長身の背に垂らした一房のプラチナブロンドを飾るのは、瞳の色と同じアクアマリンがあしらわれた銀の簪。
 完全な八頭身と端正な顔立ちを持つカインがそれらを纏えば、その姿はさながら王侯貴族のようであった。
 見慣れたはずの新郎の、目の覚めるような光を纏った見慣れぬ姿にポロムは思わず息を呑む。
「…………!!」
「ポロム――」
 見れば新郎側も同じような反応で、口を半開きにしたまま動きが止まっていた。
「か、カインさん、素敵ですわ……!!」
「いや……君の方こそ……」
 緩みそうになる口元を押さえつつカインはようやく一歩、二歩と花嫁に近づいていった。
 手が届くくらいの距離で立ち止まり、今一度頭から爪先までを呆けたように見つめる。
「……綺麗だ」
 そこでようやく、カインはふっと穏やかに微笑した。
 つられてポロムも安心したようにはにかむ。
「えへへ、ありがとうございます」
 あまりに可憐な花に触れたくなったのか――カインはポロムの頬へ手を伸ばした。
 が、普段ありえないようなスピードでその手をポロムがひっ掴み、遮ったではないか。
「!?」
 まさか拒絶されるとは思ってもいなかったのだろう、カインは戸惑ったように竦んだ。
「ダメです!! せっかく綺麗にしてもらったんですから触っちゃダメですー!!! 崩れちゃうじゃないですか!!!」
 物凄い剣幕でまくし立てるポロム。
 元来男性というものは化粧への配慮など考えつかないもの、まして朴念仁のカインとあらばなおさらであった。
「そ、そうか、すまん」
「まったくもう!」
 せっかくの上背を丸めるカイン、腰に手をやって頬を膨らせるポロム。
 身なりは変わっても普段と何ら変わりのない自分たちの動作に、やがてどちらからともなく噴き出した。
「ふ、ふふふっ」
「これではセシルに笑われてしまうな」
 笑い合いながら幸せを噛み締める。
「さあ、ではそろそろ行こう。皆が待っている」
 可愛い花嫁にカインは腕を差し出した。
 阿吽の呼吸でポロムはそれに指を絡ませ、ふわりと微笑んだ。
「……はい!」

 皆に感謝を。我らの行く末には祈りと光を。

 晴れ渡ったバロンの空に淡紅色のフラワーシャワーが舞う。
 抜けるような青、そして木々の新緑に純白のドレスが映える。
 木漏れ日を反射した永久(とわ)の指輪がきらりと輝く。
 大切な人々の祝福に囲まれ、ふたりの新たな歴史がいまここで幕を開ける――

Final Fantasy IV Another Future   Fin.


~あとがき~
読んでくださった皆様、また各章で拍手や感想をくださった皆様、長い間お付き合いくださって本当にありがとうございました!!
とにもかくにも、これにてFF4のもうひとつの未来はおしまいです。
間もなく新たな家族を迎えるであろうセシルとローザ、ようやく長年の想いを成就させることができたエッジとリディア、青き星と弟を思いもうひとつの月から祈りを捧げたゴルベーザとフースーヤ、今後ミシディアで暮らすことになるパロムとレオノーラ。
そして……カインとポロムについてはここではもう何も言う必要はないですよね。
大好きなFF4の皆に幸せな結末を迎えてもらいたくてここまで書いてまいりました。
大変な時もありましたが、皆様の応援に励まされこうして無事大団円を迎えることができてほっとしています。
皆様には楽しんでいただけましたでしょうか……?
感想等ひとこと頂けると安心できますので、もしよろしければよろしくお願いいたします。
それでは、ご愛読ありがとうございました。

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