【BL注意】チャリアSS『同棲記念日』(※付き合ってない)

黒バスでチャリアSSです。
ぬるいですが腐向けなので閲覧にご注意ください

卒業後、同棲することになるお話です。でも付き合ってないよ!
前作の後日談的位置づけですが読んでなくても大丈夫です。

同棲記念日(※付き合ってない)

 春の足音が聞こえてきそうな珍しく暖かい三月のある日、俺たちは学び舎である秀徳高校に別れを告げた。
 長かったようであっという間だった三年間に幕を閉じる式はどんなに寂しいだろう、もしかしたら泣いちまうかもな、なんて思っていたのだが、ところがどっこい、拍子抜けなくらいにあっさりと卒業の日は終わってしまった。
 そもそもウチは一応お固い進学校なので、浮かれている奴はさっさと推薦で大学が決まってる奴くらいで、大半は一般の前期試験・後期試験組だ。前期ですらまだ合否発表は出ていないし、前期で失敗した奴は中旬に後期試験を受けて三月末の発表まで気が休まらない日々が続く。
 何人かこっそり単語帳を式典に持ち込んでいるところを見ると、こんな時に卒業式どころじゃないってのが本音だろう。こんな寒い空間に拘束されて風邪でも引いたらどうしてくれるとはっきり口に出す奴だっていた。
 そんなこんなで、式の後ひと通り記念に写真を撮っただけで余韻もそこそこにクラスは解散してしまった。その後の部活での集まりで可愛い後輩ちゃんたちからのメッセージやプレゼントにはむちゃくちゃ感動したものの、三年間共に切磋琢磨してきた真ちゃんとの別れはひどくあっさりしたものだったのだ。
「じゃあな、高尾」
「ばいばい、真ちゃん」
 まるでまた明日チャリアカーで登校するかのような雰囲気だったから、真ちゃんにとって俺はそんな軽い存在だったワケ?とちょっと穿ってしまったりもしたほどだ。
 ところが、根本的に俺はアホだった、いや真ちゃんはマジもんの愛すべきアホだと痛感する出来事が起きたのは、その十日後――幸いにも俺も真ちゃんも前期試験で志望大学からの合格通知が来た少しあとのことだった。

『明日は暇か』
 たった五文字のメールがスマホの着信音を鳴らしたのは午前零時に回る頃。俺は一人暮らしに持って出る漫画を選別する手を止めて、画面に文字を入力する。
『暇だけど、どったの?』
 返信はすぐに来た。
『朝十時に駅前に来い』
 味も素っ気もない文面だけど俺はすぐにピーンときた。真ちゃんめ、また何か厄介なラッキーアイテムをゲットしようとしているな。駅前集合ってことは電車で行かなきゃならないような場所なんだろう。今度は何か、流行りのゆるキャラか何かか。千葉県の形をした某犬あたりなら近いけど、凝り性の真ちゃんのこと、九州の某黒い熊や四国の某黄色いひよこが欲しいなどと言い出しかねない。まさかと思われるかもしれないけどそれが真ちゃんクオリティなのだ。
 まあちょっとしたお出かけであれ小旅行であれ、受験からやっと開放されてストレス発散したい今(たとえそれが超しょーもない目的であっても)それは渡りに船だ。俺はノリノリで了解の返事を送った。
 そういえば真ちゃんとは合格発表の日に電話はしたけど、会うのは卒業式の日以来だな。あれっきりじゃなかったことが嬉しかった。

 ところが翌日。
「……真ちゃん? それ、なに」
 俺は真ちゃんが手に持っていた一冊の本の、緑色の毛玉みたいなキャラクターを指差していた。
「住宅情報誌だ。知らないのか? 賃貸物件が多数掲載されている素晴らしい本なのだよ」
「知ってるって! そうじゃなくて、なんでそんなモン持ってんの? てっきり今日はラッキーアイテム探しなんだと思ってたんだけど」
「ふん、ばかめ。そんなことだからお前はダメなのだよ。いいか、物件探しというのはのんびりしていてはすぐに良い条件のものは他に取られてしまう。同じ値段で新築か築二十年か、どちらが良いと思ってる」
「そりゃ新築のほうがいいけど、俺が聞きたいのはそこじゃなくて……」
 言いながら俺は自己解決した。
 あーなるほど、真ちゃんは俺に物件選びを手伝って欲しいわけね。確かに真ちゃんの進学先の大学は実家から通学するにはちょっくら遠いから、どこか部屋を借りた方がいいかもしれない。でも見るからに生活力の無さそうな真ちゃんが自分で物件選びをして一人暮らしを始める図は思い描くと心配だらけだし、真ちゃん自身もそれを分かってて俺を頼ってくれたってわけだな、きっと。
 真ちゃんが言う通り、良い物件はあっという間に埋まってしまうから、俺も後でその本借りよっかな。俺はのんきにそう考えていた。
「で、どーゆー部屋がいいわけ?」
 俺は真ちゃんが開いたページを覗きこんで尋ねた。
「そうだな……まず風呂は和式で、トイレと分かれていることは絶対だろう。それからベランダは南向きが良い」
「うんうん」
 真ちゃんにしてはまともな答えが返ってきたので俺はこくこくと頷く。ラッキーアイテム用の展示部屋が必須とか言われたら吹き出していたところだ。
「台所は、最低コンロが二口欲しいな。三口あればもっと便利だろうが」
 へえ、真ちゃん料理する気なんだ、と意外な目で俺は真ちゃんを見上げた。家庭科の調理実習でなかなかの酷いシロモノを作っていたけどな。
「ふーん、それから?」
「部屋は洋室でも和室でも良いが、二部屋必要だな。リビングの狭さには目を瞑るとして」
「ってことは2LKってやつ? ……広すぎじゃね?」
「やはり自分用の部屋は必要だからな、当然だ」
 やっぱり自室以外にラッキーアイテム部屋を作る気かお前!と俺は心中で突っ込む。つうかそんな家賃どこから出す気だ。1Kアパートの倍はするだろ。
「高尾、お前は何か希望はないのか?」
 なんか変だなと思っていると急に話を振られて、俺は少し首を傾げた。
「んー、まぁ俺は電車のアクセスがいい駅の近くがいいかなぁ。大学から少々遠くてもいいから、色んな線が走ってるとこ借りるつもり」
「なるほど、となると……」
 何となく返しただけだったが、真ちゃんは真剣な眼差しでページをめくり始め、関東の地図が出ているページを開いた。
「この辺りか」
 覗きこむと、真ちゃんの爪の先にあった地点は真ちゃんの大学に近いとは言えない場所だった。
「えー、もうちょい近いほうがいいんじゃね? せっかく借りるんだろ?」
「よく見ろ。俺の行く大学がここ、お前の行く大学がここ、」
 その地点の右、左へと真ちゃんは長い指を滑らせる。
「そうするとこの辺りがちょうど中間になるんだ。少し遠いが、交通の便が良いからお互い通学に時間はあまりかからない」
「……フーン……?」
 ん……?
 お互い??
 さっきからなーんか会話が妙だなと思ってたけど……んんん???
 ぱちくり、と音がしそうな瞬きをして、俺はロボットみたいにぎりぎりと斜め上に顔を向けた。
「何だ?」
 若干眉間に皺を寄せたくそ真面目な表情で真ちゃんは俺を見下ろしている。いや、何だ、じゃないっしょ緑間さん。そりゃこっちの台詞だ。
「えーっと……真ちゃん? もしかしてー……なんだけど、俺たちって、一緒に住むのカナー……?」
 すると真ちゃんは「ばかめ」と顔にでかでか書いてあるような調子で言った。

「当然だろう? 何を今更」
 
 わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
 ここに来て明らかになった驚愕の新事実!!
 知ってた!? 俺、真ちゃんと一緒に暮らすんだって!!!
 俺、知らなかったよ!!!!
 もし今ツイッターをしていたら俺は今、草を生やしまくりだったことだろう。
「ちょ、ちょっと待って真ちゃん。いつそんな約束したっけ……?」
 一億分の一パーセントもないと思うが、俺が忘れているだけな可能性もある。恐る恐る尋ねると、真ちゃんは「忘れたのか?」と話し始めた。
「家庭科の調理実習の時、味噌汁を作っただろう。あの時お前は言ったはずだ、毎日俺に味噌汁を作ると」
「み、味噌汁……?」
 そんな昭和のプロポーズじゃあるまいし。わけが分からなすぎて俺の脳味噌が味噌汁になっちまいそうだ。
 けど待てよ、確かに調理実習で味噌汁を作った記憶はある。俺はデリート待ちの記憶のゴミ箱からその時のことをかき集めた。
 でっけー身長に似合わなすぎる真ちゃんのエプロンと三角巾姿(それを見て腹抱えて笑う俺)。
 真ちゃんの危なっかしい包丁さばき(俺だって上手くはないけどあれは正視できないレベルだった)。
 塩ひとつまみの量り方が分からないと文句をつける真ちゃん(ひとつまみはひとつまみだろ)。
 味噌の量も大さじですりきりぴったりに量ろうとする真ちゃん(味噌汁で普通そんなことしねぇ)。
 そしてもう見てらんなくて目分量でさっさと完成させた俺(真ちゃんは美味いと褒めてくれた)。
 場面場面がおぼろげに脳裏に蘇る。その中で、やっとそれっぽいものにヒットした。

『大したものだな、目分量でこんなに美味く作れるのか』
『味噌汁くらいしかできないけどねー。こんなんで良ければ毎日でも作ってやるよ』
『よろしく頼む。ちなみに俺はねぎと豆腐の味噌汁が好きなのだよ』
『りょーかい! 俺ってば良い嫁さんになれるかも、なーんてなっ!』

 あれか、あれなのか……っ!!
 思わず俺は頭を抱えた。ほんの冗談で言ったつもりが、真ちゃんの中ではそう解釈されていたとは。一体誰が予想するだろうか、いやしない。かっこ反語。
「高尾、どうした?」
「いや……」
 頭が痛い、ロキソニンじゃあ治らない頭痛がするぜ。
「とにかく、お前も納得のいく物件を探すために今日は呼んだのだよ。何せ同棲するんだからな」
「ブッ!!!」
 飲み物を飲んでいたら大惨事になっていたであろう勢いで俺は吹き出した。
「ど、どうせいって、真ちゃん、ふひひ、あっははは! 腹痛ぇ」
「頭を押さえたり腹が痛くなったり、忙しい奴だな」
「ど、ど、同棲って、せめてルームシェアって言いなよ、あーおっかしい!」
 あの堅物の権化のような真ちゃんの口から同棲などという浮ついた単語が聞けて俺の腹筋はもう崩壊寸前だ。何なら今日この日を同棲記念日と名付けてやろうか。
「ルームシェア……? 意味は同じだろう」
「そうだけど、あのねえ、同棲ってのは、ぷくくく……! あぁ~もういいや同棲でも。緑間やっぱおもしれーわ!」
 俺はケラケラ笑いながら目尻の涙を拭った。
 真ちゃん自体がそもそも神がかってぶっ飛んだ存在なんだから、多少の言葉のニュアンスなんかもうどうでもいいや。真ちゃんと一緒にいればいつだって楽しいしおもしれーし、俺は笑っていられる。それだけは間違いないんだ。
「何がおかしい?」
 奇妙な新種生物でも見るかのような眼差しで俺を見ている真ちゃん、お前のほうがよっぽどおかしいからな? でもそれには気付いてくれなくて構わない、むしろ大歓迎なのだよ。愛すべきアホ、とはきっと真ちゃんのためにある言葉だ。
「よーし、じゃあ今日はさっき指差した場所まで電車で行ってみようってわけね。事件は現場で起きているって言うもんな、足で調査しなきゃな!」
「その通りだが別に事件は起きていないのだよ高尾」
「もののたとえだってば。ちょっと待ってねー、今路線調べるから」
 電車乗り換え案内のアプリを起動させる俺の指は早い。何だろう、こんなワクワクするの久々だ。
 目的の駅への行き方を探り当て、俺たちはペンギンが描かれたカードを手に改札を抜ける。電車が来るまでの待ち時間も喋ってりゃあっという間。ちょうどあいていた二人掛けに並んで座って揺られること一時間弱、ひとつ電車を乗り換えてまた数十分。
 なあ、真ちゃん。
 お前は知ってたか? 今までずっと同じ目標に向かって努力してきた俺たちが、部活を引退してそれぞれの受験勉強をするようになって別々の方向に走り始めた時、俺が言いようのない寂しさに襲われたこと。
 俺にとっちゃ真ちゃんは単なる友達以上の存在で唯一無二の相棒だ。三年間家族よりも誰よりも一緒に過ごしてきた己の半身のような存在と離れるという未来を、どうしてもうまく想像できなくてもがいていたんだ。そりゃもう、恋なんじゃねーのってぐらいにな。
 でも真ちゃんの言うことが本当なら、真ちゃんはあの調理実習の時点からずっと、卒業後は俺と一緒に住むつもりでいてくれてたんだよな。きっかけはメシだったけど、真ちゃんがそれだけでルームシェアしようなんて言う人間じゃないのも知ってる。
 ……何だよ、カンペキに俺の悩み損じゃん。あーあー、馬鹿らしいやら嬉しいやらで頬が緩むぜちくしょう!
「高尾、楽しそうだな?」
 真ちゃんがニッと微笑んだ。
「へへっ、バレた? 今俺、すっげー楽しいんだよね!」
 ガタゴト電車に揺られて目指すのは、俺たちの新しい我が家。
 こんな楽しいことって、なかなかないだろ。なぁ緑間?

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