トレミレ小説 幕間

第3話のおまけ話。

※この章以降は2011年発行のトレミレ小説『イーリアン・ブルー』の書き下ろし分のUPです。

幕間 – Interlude –

 ミレディを見送ってから自宅に戻ったトレックは、じょうろを持って庭に立っていた。小さな菜園では野菜が赤や緑の実をつけている。
「ふわぁあ……」
 大あくびをしていると、後ろから聞き慣れた声が掛けられた。
「よう、トレック! 何してるんだ?」
「あぁ、ノアか。うん、トマトに水をやってるんだ。ふわぁあ」
「ふーん。それにしてもずいぶんと眠そうじゃないか。あっ、さてはお前、」
 ノアはにんまりとした笑みを浮かべた。
「昨夜はミレディさんとお楽しみだったな?」
 文字通り以上の意味を込めてノアが言うと、トレックはじょうろをトマトのほうに傾けたままのんびり答えた。
「うん、まあ、一晩中だったからなぁ」
「ひ、一晩中!? お前、すごいな……!」
「そうなんだよ、朝までずっと喋ってたからさすがに眠いや。ふわぁ……」
「……へ?」
 いつもと何ら変わりなく眠そうに答えるトレックに、ノアは一瞬我が耳を疑った。
「どうかしたかい?」
「しゃ、喋ってた、って……それだけなのか?」
「うん、すごく楽しく話せたよ」
「お……お前、それでいいのか?」
「いい、って何が」
 トレックの相変わらずの回避率に、さすがのノアものれんに腕押し状態だ。これでは訊いているほうが馬鹿みたいではないか。
「あ、いや、べべべ別に何でもない! 楽しかったんなら良かったな、ははは、は……」
「……変なやつだなあ」
「気にしないでくれ、はは……。じゃあまた夕食の時に、な」
「うん、またあとで」
 玄関へ入っていくトレックにゆるく手を振りながらノアは溜息をついた。
「……ハァ、こりゃ思った以上に手ごわいぞ。ま、トレックってこういうやつだよな……頑張れミレディさん……!」
 難攻不落なトレックへのミレディの健闘を胸中で祈り、ノアは右手を胸の前で握りしめた。
 
「……いいんだよ、これで。いや、これが、かな」
 トレックのその穏やかな呟きが、ノアの耳へ届いたかどうかは定かではない。

第4話『焼きいも』に進む

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