トレミレ小説 第8話『エピローグ』

第7話の続きで最終話です。

第8話『エピローグ』 – Wish Happy Days –

 三ヶ月後。
 トレックは、久々にイリアに戻ってきたノアと近所の公園で顔を合わせていた。いい大人がふたりしてブランコに座り、申し訳程度にきい、きい、と鎖を揺らしている。
「まさかお前が本当にあんな美人さんと結婚しちまうとはなあ……」
 世の中分からないもんだ、とノアは悪びれもせず失礼な感想を言った。
「ははは。将軍、じゃなかった、陛下にも言われたよ」
「まったく、久しぶりに帰ってみれば、イリアは国になってるし将軍は王様になってるしお前は結婚してるしでおれにはもう何が何だか」
 ノアは空を仰いで大げさに溜息をついた。
「……で、式は?」
「あー……、今は彼女、新しい仕事で忙しいから早くても秋頃かなぁ」
「その時は呼んでくれよな」
「うん、分かった。ノアが連絡のつくところにいれば、だけど」
「はは、そりゃそうか」
 そう言って笑ったノアは、以前と比べると若干たくましくなっただろうか。日にも焼けたように思える。何より、昔は生気に欠けた暗い瞳をしていたものだが、今では陰鬱さなど感じさせない感情豊かな眼をしているのが印象的だ。きっとノアはフィルに出会うべくして出会ったのだろう、トレックは生き生きとしている元相棒を見てそう思った。
「今日はフィルさんは?」
 しかしトレックが問うと、ノアは急に半眼になってうなだれた。
「……サカにいる」
「はぁ? なんでまた」
「いや、それがさ……実はおれ、この後サカに行ってフィルの親父さん――バアトルさんに会わなきゃならないんだ。フィルさんには一足先にサカの親父さんのところへ行ってもらった」
 なんで、ともう一度訊きかけてトレックは理解した。男が恋人の父親に会わねばならない用事などそれほど多くはない。というよりノアの状況を考えれば他に思い当たらない。すなわち、フィルとの結婚の許可を求めに行くのだ。
「あぁ……それは大変そうだ」
 勇ましさみなぎるバアトルの姿を思い出してトレックは苦笑した。
「はぁぁ、怖い……。おれ、殺されるかもなあ。トレック、おれが死んでもおれのこと忘れないでくれよな」
 マムクートと戦う時よりも怯えた表情でノアは言った。いつ死んでもかまわない、と平気で言っていた昔のノアが聞いたら鼻で笑うような台詞である。
「墓参りくらいは行ってやるよ」
「ああ、美味い酒でも供えてやってくれ。はぁ」
 銀の斧を持ったバアトルに追いかけられる夢を三日連続で見ているノアはげんなりと頭を抱えた。
「……大丈夫だよ、たぶん」
「たぶん、かよー」
「心配なら銀の剣でも持っていけばいい」
「はは、冗談が冗談に聞こえないぜ」
 引きつった笑いを浮かべてノアは顔を上げた。ためらっていても仕方がない。イリアに戻って自分の実家にも顔を出し、元相棒にも会った今、もうバアトルのもとへ行くしかないのだ。
「あーあ、じゃあおれ行ってくるから。無事を祈っててくれ」
 ノアは腹をくくったように、勢いをつけてブランコから降りた。
「うん、がんばれ」
 トレックもブランコを降り、ノアの前に立った。公園の出口まで並んで歩き、そこから別方向へ向かうノアを見送るべく立ち止まった。
「じゃあ、また」
「ああ」
 ノアはひとつ頷いて背を向けた。そして五、六歩進んだところでもう一度トレックに振り返り、ぱっと無邪気な笑顔になって言った。
「トレック。幸せになれよな!」
 それは親友から贈る、心からの祝福の言葉。トレックは一瞬驚いたように瞬きをしたが、すぐに穏やかに微笑んで頷いた。
「ありがとう」
 そして互いに軽く手を振り、トレックとノアは別れた。
 ふと空を見上げてみるといつの間にか日が傾いて、キャンバスに絵の具を広げたように青と橙が混ざっている。(かり)たちも家路につく時間らしく、きれいな列を作って森のほうへと飛んでいた。
 トレックはノアの後ろ姿が小さくなり、点になり、やがて見えなくなったのを確認してから、
「さあて、帰るか」
 とあくびをしながら呟いた。
「ん、今日はおれが食事当番の日かぁ」
 ミレディは今夜は何が食べたいだろう? 帰りに何か買って帰ろうかな。そろそろ夏野菜が旬の時期だから、いつもの八百屋に美味しいトマトやナスが並んでいるかもしれないな。
 そんなことをのんびり考えながらトレックは歩き始めた。何気ない日々の中にある、とても幸せそうな表情を浮かべて――。

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– 後記 –
読んでくださってありがとうございました。
封印ではマイナーカップルのトレックとミレディのお話はいかがでしたでしょうか。
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それでは、また。

GBA三部作と蒼炎暁の配信および移植を心待ちにしつつ。

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