【DQ4】勇者ソロとゆかいな仲間たち

DS版の会話機能がとても面白くて浮かんだ話。
男勇者で名前はソロです。

勇者ソロとゆかいな仲間たち

 ここは大陸有数の大都市、エンドールの宿屋。予定より早く着いたため夕方まで各自自由行動にしようということになり、その後、宿のロビーで待ち合わせをしていたときのことだった。
「はあっ!? い、今なんて……?」
「だーかーらぁ、スッちゃったんだって。カジノで。」
「……いくら。」
「五千ゴールド。」
「ごッ……!?」
 突然頭を鉄球でぶん殴られたかのように立ち眩んだ青年は、そのまま床にへたり込んだ。
「ソロ? ……ごめんネ?」
 悪びれるふうもなく首を傾げて謝る美女の足元で、青年――勇者ソロは身体が砂になって崩れていく思いがした。床板の木目すらも嘆きむせぶ人間の顔に見えてきて視界が震える。
「マーニャさん、本当に悪かったと思ってます……?」
「あ、当たり前でしょ、失礼ねー。すぐ倍にして稼いできてあげるわよ!」
「その台詞……ついこの前も聞いたばかりですけど。」
「あ。そうだっけ? あはは、ごっめーん!」
 おどけたようにケラケラ笑うマーニャを恨めしそうな目で見上げ、ソロは今日楽しみにしていた久々のディナーを、郊外のワンコイン定食に変更することに決めた。
 本当は宿も格安店にすべきだが、すでにチェックインを終えてしまっているので仕方がない。ソロはロビーにあるソファーに倒れこむように沈んだ。
「ごめんなさいね、ソロ。こんな姉を持って私も悲しいわ……。」
 ソロに同情するように、マーニャの二つ下の妹であるミネアが溜息を落とす。
「ミネアさんも苦労してきたんですね……。」
 ソロが同調すると、ミネアはローブの袖で目元を拭うしぐさをしながら肩を震わせた。
「ええ……いくら私が占いでお金を稼いできても、姉さんったら一晩でカジノでスッてしまうんだもの。おかげで私は朝も晩も休みなく占い師として働かなくちゃならなくて……。」
「あら、そのおかげでエンドールはミネアの信者だらけになって、一時は新興宗教でも興せそうな勢いだったじゃん? ミネアもけっこう楽しそうに教祖様やってたわよねえ、みんなにミネア様ミネア様って崇拝されてさ~。」
 図星だったのか、普段穏やかなミネアの眼光が瞬時に鋭利な刃物のようにひらめいてマーニャを睨んだ。
「姉さん、変な言い方しないでくれる? 私は迷える人々にほんの少し道を示しているだけよ。」
「またまたぁ~! 相手を喜ばせるために占いで嘘つくくせにぃ。」
「人聞きが悪いわね。お客さんは必ずしも指示がほしいわけではなくて、誰かに安心する言葉を言ってもらいたい人も多いのよ。だから時にはあえて占いの結果とは違うその言葉を言ってあげることもあるわ。それのどこが悪いの、相手を安心させることだって占い師の立派な勤めですっ。」
 バチバチとマーニャとミネアの間で閃光が散った。
「まったく、仲がいいんだか悪いんだか……。」
 いつもの口喧嘩が始まった、とソロは逃れるようにソファーの肘掛けにもたれた。
 自由奔放豪放磊落なマーニャに比べ一見堅実で真面目に見えるミネアだが、その言動に時折氷よりも冷たい黒いものが混じることをソロはもう知っていた。こういう時は関わらないのが吉だ。
 と、そこへかしましい声が飛んできた。
「たっだいまー!」
 見なくても分かる、おてんば姫アリーナだ。足音で察するに、後ろにはいつもどおりクリフトとブライも伴っている。
「ああ、おかえり。」
 ソロが微笑むと、アリーナは妙に興奮した様子で、何か言いたくてたまらないといった顔で駆け寄ってきた。
「どうした? 何かいいことでもあったのか、姫?」
「えへへー、なんだとおもう?」
 そのとき、クリフトとブライが一瞬顔を曇らせたのをソロは見逃さなかった。何やらとても嫌な予感がする。
「じゃーん!! 見て見て、強そうでしょう!?」
 アリーナはそれまで後ろ手に組んでいた右手をバッとソロの目の前に掲げた。その手には、ソロの見覚えのない金属製の武器が装着されている。
「見て、この輝き、鋭さ! これがあればもっと強い魔物とも戦えるわ! 炎の爪っていうとても珍しいものなんですって!」
「え……。」
 ソロの当惑をよそに、アリーナは炎の爪をうっとり撫でたり光にかざして見つめたりと完全に自分の世界の中だ。武道の申し子と言えば聞こえはいいが、その前に慮ってもらいたいのはこちらの台所事情である。
「えいっ、えいっ。どかーん、ばきーん! アリーナ姫の勝利~!」
 ソロの憂慮もつゆ知らず、アリーナは空中にジャブを放ちながらひとり戦闘ごっこに興じている。
 ソロはちょいちょいとクリフトとブライを呼び寄せて小声で囁いた。
「……クリフト、あれ、いくらしたんだ。」
「……偶然骨董市が開催されてまして。……七千ゴールド。」
「な……!?」
 ソロはひゅっと息を吸い込んだ。そのまま魂も抜ける気がした。
「すみません、止めたのですが……。」
「なんじゃとクリフト、嘘を申すでないぞ。おぬし最終的には似合うだの強そうだの散々姫様を持ち上げていたではないかっ!」
「ブライ様、そっそれは、」
 その光景が現実よりも鮮明に目に浮かんでソロは光のない目をじっとりとクリフトに向けた。
「うう……あまりにもお似合いだったので……つい。し、しかしブライ様だって骨董市で大はしゃぎしておられたではないですかっ! 高そうな魔導書や古文書をこっそり何冊も購入しておられたところを見ましたよ!」
「ぬあっ!? ななな何を申すか、言いがかりは……」
 ブライが抗議しようと腕を振り上げたとき、いったいどこに隠していたのか、数冊の年季の入った書物がローブやマントからバサバサと床に落ちた。
「…………。」
 沈黙するブライとクリフト。
 ソロは声もなく天井を仰ぐ。
 くらっ。
 音を立ててめまいがした。
 支出額はマーニャとアリーナを合わせてすでに一万と二千ゴールド。ブライの書物もいくらしたのか知らないが決して安くはないだろう。彼らは必要経費と浪費の違いをわかっているのか? まさか、お金は泉のようにソロの懐から湧いて出るとでも思っているのではなかろうか。
 しかしソロははっと気がついた。
 まだだ。まだ終わっていない。あの二人がまだ戻ってきていないのだ。田舎出身のおのぼり戦士と、何をしでかすかまったく予測不能な武器屋の、オジサン二人組が。
「冗談じゃない……冗談じゃないぞ……!」
 頭を抱えていると、はたして彼らはやってきた。中にまで聞こえてくる声でわいわいと談笑しながら、ライアンとトルネコが宿の扉を開け戻ってきたのだ。
「ただいま戻りましたぞーっ! いやー暑いですなァ!」
「おや、皆さんお早いお戻りだったんですねえ! 我々はついゆっくりしてしまいまして、わっはっはっ。」
 聞かなくても分かる、その調子の良い喋り方と高いテンション、赤ら顔。極めつけは周囲に香る、酒の臭い。
 それでもソロは一応ひきつる笑顔で訊いた。
「ライアンさんにトルネコさん、おかえりなさい。どちらにおられたんですか?」
 すると二人はよくぞ訊いてくれましたとばかりにずいと顔を寄せてきた。
「それがですねえ! 私、先日エンドールに寄った際にたいそう美味そうな隠れ家飲み屋を発見してしまいまして! さっきライアンさんと一杯やってきたんですよ!」
「さすがトルネコどの、目の付け所がすばらしい! このライアン、生まれてこのかたあれほど美味い酒を飲んだことはありませぬぞ! いやはや、都会とは良いものですなァ! どわっはっは!」
 大きな声で唾を散らしながら酔いどれ二人はまくし立てる。絶対に『一杯』だけやってきただけではないことは明白だ。
「そうだ、ソロさん。ソロさんも後で行きましょうよ。夜はもっと料理やお酒の種類が増えると言ってましたから、きっと最高ですよ! パーッとやりましょうパーッと!」
「……ハアァァ。」
 ソロの海より深い溜息を勘違いしたのか、トルネコは丸っこい首を傾げた。
「おや、ソロさんの地元ではまだお酒を飲んではいけない年齢でしたか? レイクナバでは十六歳から飲めるもんですから。すみませんねえ、わっはっはっ」
 的はずれなトルネコのフォローがソロの眉間にざくざくと皺を刻ませる。もはや「いくらしたんですか?」と訊く気すら起きなかった。
 傍らではマーニャとブライがトルネコの話に乗って興味津々で飲み屋のことを尋ねている。
 ソロの頭のどこかが、ぷちんと切れた。
「……お、ま、え、ら、なぁ……」
 ゆらり、とソファーから立ち上がる。
 皆の目が「おや?」とのんきそうにソロに向く。
「いい加減にしろォーーーーー!!!」
 ソロの怒りが大爆発した。目は鬼のように見開かれて血走り、怒声は窓ガラスをもビリビリと震わせ、騒いでいた面々は一様に静まりぎょっとした顔で息を呑んだ。
「あのなあ! ふざけるなよ!? どいつもこいつも好き勝手しやがって! 金銭管理してるおれの身にもなってみろよ!? おまえらのせいで、せっかくコツコツためた貯金がパーだ、パーーー!! 何かあったときのためにと思って今まで誰でも貯金を下ろせるようにしておいたけどな、それも今日で終わりだ! 貯金は今後一切誰にも触らせねえからな、予算はすべて俺が組むし、それ以外の支出は全部おれに相談しろ!決まりったら決まりだ、バッキャロォーーー!!!」
 そしてソロは子どものように号泣しながら階段を駆け上がり、二階へ消えた。
 皆がその剣幕にあっけにとられていると、階段の上から花瓶が飛んできて、壁に当たって激しい音を立てて割れた。
 普段は穏やかで年上の仲間にはいまだに敬語を崩さない彼が、あたり構わず怒鳴り散らし物にあたるなど、未曾有の緊急事態である。
 階段の上にソロが再び顔を出した。
「もー、破産してもほんとに知らねーんだからな!! ウワアァァァ!」
 そしてバタバタと走り去る音がしたかと思えば、扉が荒っぽく開閉する音が聞こえてソロが部屋に閉じこもってしまったことが伺えた。
 残された者たちはただただぽかんとして階上を見上げ、ようやく、これはただごとではないという実感が訪れた。
「……びっくりした。ソロってちゃんと、怒るんだね。」
 呆けたようにアリーナが言うと、皆しんとして頷いた。
「とりあえず……花瓶、片付けましょうか。」
 その場を取り繕うように言ったクリフトに賛同し、それぞれにぎくしゃくと動き始めたのだった。

 その夜。
 何時間経っても一向に部屋から出てこないソロを気遣って(出てきてくれないと相部屋予定の他の男性陣の寝場所がないという理由もあり)、ついに部屋の扉を叩いたのはミネアだった。
 金銭的被害を与えていない人物ということもあったが、ソロと年齢が近く、メンバーの中でも最も付き合いの長い古参の一人という意味でも、ミネアが誰より適役だったからだ。
「ソロさん? 入ってもいいですか?」
「……ミネアさん?」
 ミネアとマーニャの声は似ているが、話し方や声の調子がまったく違うので名乗らずとも通じるらしく、扉の向こうから窺うような返事が返ってきた。
「いいですよ。入ってください。」
 そっと扉を開けると、ソロは窓辺に肘をついてぼんやり夜空を眺めていた。
 ミネアは何も言わず扉を閉め、持ってきたパンやシチューをテーブルに並べた。
「夕食、下で貰ってきました。食べるでしょう?」
 ソロはばつが悪そうに振り返り、苦笑してこくりと頷いた。
 夕食を挟んで向かい合った位置に座り、ミネアはパンを頬張るソロを眺めながら口を開く。
「……さっきはごめんなさいね。あの後、みんな反省していたわ。」
「いえ……おれのほうこそ、すみません。すごく子どもみたいな怒り方してしまって。今更恥ずかしいです。」
 ソロはべし、と己の額を叩いた。
「これほどの金額じゃないけど前にも何度かこういうことがあったし、もう勘弁ならなくて、……つい。」
 だからといってあんなふうに突然怒鳴り散らしたり、物を投げたり、泣いたりしなくてもよかったではないか、と後悔の念が突き上げる。
 さぞや幻滅されただろう、と思ってふとミネアに目線を上げると、ミネアは思いのほかやわらかく微笑んでいた。
「……よかった。」
「え?」
 ソロはぽかんとしてパンをちぎる手を止めた。
「ソロさんが、ちゃんと怒ったり泣いたりできる方で、よかった。ソロさん、善き勇者であろうとするばかりに無理なさっているのではないかと思ってましたから。」
 ミネアはふふっと微笑んだ。慌ててソロは否定しようと口を開く。
「無理だなんて、」
 していない。
 いや、はたしてそうだろうか?
 山奥の村をひとり旅立ち、決して弱音を悟られぬように。
 自分を勇者と呼び集ってくれた仲間たちに、決して幻滅されぬように。
 たった一歳上のミネアにも敬語混じりで、同年齢のクリフトにすら一定の距離を置き、決して下を向かずに振る舞ってきた。
 だがそれは、シンシアと野山を駆けまわっていた頃の本当の自分と相違ないだろうか?
「お、おれは……。」
 うろたえたソロに、ミネアは占いの結果を預言するかのようになめらかに言った。
「腹が立ったら、怒りなさい。悲しい時は、泣けばいい。そして嬉しい時楽しい時は大きな声で笑ってください。私たちに遠慮など必要ないのです。
 確かに私たちは運命に導かれて勇者であるあなたのもとに集ったのかもしれません、しかし今こうして共にあるのは、あなたと共に歩みたいという私たちの意志にほかならないのですから。」
「ミネア……さん。」
「私たちは、あなたもまた私たちと共に歩みたいと思ってくれることを、願っていますよ。」
 共に。
 勇者と同伴者という関係ではなく、等身大のまま向かい合った仲間として。
 ソロは目の前の霧がさっと晴れるのを見た。
 ミネアは深刻な雰囲気を振り払うように幾分声のトーンを軽くして言った。
「だから、今度からは姉さんが無駄遣いしてきたらその都度ガツンと言ってやってくださいね? 私じゃあいくら言っても聞きやしないんだから!」
 ソロの目元もふっと緩む。
「……はい、わかりました。これからは、溜め込まずにちゃんと言うようにします。」
「はい。そうしてくださいね。」
 ミネアがにこりと笑い、ソロはしっかと頷いた。
「みんな、あとでごめんなさいの会をするって言ってましたよ。ソロさん、顔を出してあげてくれますか?」
「もちろんです。おれも、怒鳴ったこと謝らないと。」
 少しはにかんで、ソロはパンの最後の一切れを口に入れた。
 と、その時。
「ねぇソロはなんて言ってる? 全然聞こえないわ!」
「ひ、姫様、声が大きいですよ!」
「ばれてしまうではありませぬかっ!」
「ちょっとあんた、押さないでってば!」
「お、重いですぞトルネコどの……!」
「す、すみません、腹の肉が邪魔で……ああっ!」
 ミシミシッ、バターン!!
 なんと扉が外側からの圧力に悲鳴を上げ、すさまじい勢いで開いたと同時に、仲間たちがドドッとひとかたまりになって部屋になだれ込んできたのだ!
「ブフォッ!? げほ、げほげほっ!」
 驚いたソロは食べかけのパンに激しくむせてしまい、慌てて水を喉に流し込んだ。
「な、な、何してるんですか皆さん!?」
「姉さんたち、反省会はあとでやるんじゃあ……?」
 豆鉄砲をくらった鳩のようにソロとミネアが目を白黒させていると、不運にもトルネコの贅肉の下敷きになってしまったマーニャが床でひらひら手を振り苦笑した。
「だってぇ、じっと待ってるなんて性に合わなくてサ。」
 それに続いたのは器用にクリフトを踏み台にして着地したアリーナ。
「ごめんね、ソロ。どうしても気になって、来ちゃったの。」
 男衆も床に潰れたままマーニャとアリーナに同意して頷く。
 彼らの目に嘘偽りはない。ミネアはくすくすと可笑しそうに笑い、「ね?」とソロを見た。
「……ははっ。」
 思わず、ソロの顔に笑みがこぼれた。
 団子状態の仲間たちが不思議そうにソロを見上げるが、なんだか無性に、嬉しいような楽しいような気分で胸が一杯だった。
「よし! 今からここで反省会をしよう。みんな、言いたいことはどんどん言ってくれよな!」
 そう言って腕を広げたソロの表情は、何か枷が取れたように晴れやかだった。

 一ヶ月後。
 かつて『砂漠のバザー』があった地にホフマンの手により誕生した『移民の町』の様子を見るべく、一行は久々にホフマンのもとを訪れていた。
 ホフマンとの挨拶もそこそこに、ソロの怒声が響く。
「マーニャさん、ホフマンさんの町で勝手に踊りでお金儲け始めないで!」
「ミネアさんもその横でちゃっかり占い商売してないでマーニャさんを止めてくれ!」
「ライアンさんそっち違う! 方向音痴なんだからあまりウロウロしないでください!」
「トルネコさん小さなメダルコレクションしてるのは知ってますけど、民家のタンス開けすぎ、ツボ割りすぎ!」
「姫、ひとりで魔物退治なんて行かなくていいから! ブライどの、クリフト、後追いかけて!!」
「あーっ、もう!!」
 ぜえはあと肩で息をしながらソロは頭をがしがし掻いた。
 エンドールでの一件以来、ソロは少し変わった。
 以前のように仲間に遠慮して笑顔を作ったり、距離を置いたりすることがなくなったのだ。おかげで好き勝手に動く仲間たちと朝から晩まで本気で向き合うのに忙しく、夜は疲れ果てて泥のように眠りに落ちる日々だ。
「すみませんホフマンさん、せっかく久々に会えたのに。勝手な人ばかりで……。」
 申し訳なさげにソロが謝ると、あっけにとられていたホフマンはやがてにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「なんだか、ずいぶん楽しそうだな、ソロ。」
「ええっ!? 楽しそう……?」
 仲間をまとめるのに苦労してばかりなのに、いったいどこが楽しそうに見えたのだろう。
 ホフマンは目を細め、昔に思いを馳せるように空を見上げた。
「ほら、おれたちが出会った頃。覚えてるか?
 あの頃おまえは村を焼かれてから日も浅く、マーニャさんやミネアさんとも出会ったばかりで、本当に悲壮な顔をしてた。表情は暗く目はうつろ、声にはまるで覇気がなく、まるで……生きたまま死んでるみたいだった。
 言わなかったけど、おれはそのうちおまえが自暴自棄になって命を投げてしまうんじゃないかと心配だったよ。」
「そ……そうだったんですか。」
 今でこそ冷静に振り返られることだが、確かにあの頃は希望も何もなく、目の前が闇に覆われた最も辛い時期だった。しかし自分がそんなに酷い顔をしていたとは。
 ホフマンは頷いて話を続けた。
「うん。でも今日会ってみて、おまえがちゃんと笑ったり怒ったりしてるのを見て、安心した。ソロ、おまえ『生きてる』。」
「!!」
 ソロは己の両のたなごころを広げ、見つめた。
 マーニャは相変わらず遊び癖と浪費癖が酷いし、ミネアは時々ものすごく黒い発言をするし、アリーナは武道一辺倒だし、クリフトはアリーナ一辺倒だし、ブライは毒舌を憚らないし、ライアンはいつまでたってもおのぼりさんだし、トルネコはまともに戦闘してもらうことすら困難だ。
 だけど、そんな中で悲嘆に暮れる暇もないくらいに大声で笑ったり唾を散らして怒ったり、飛ぶように日々は過ぎてゆく。
 ホフマンに言われた『楽しそう』という言葉――
「そうか、おれは、楽しいのか。」
 自然と呟きがこぼれ出た。
「生きてるんだ。」
 両手の間にきらきら光る宝物が見えた気がした。ソロ、ソロさん、ソロどの、と笑顔で呼びかける仲間たちの顔が次々に浮かぶ。
 顔を上げると、ホフマンが満足そうにしっかと頷いていた。
 その時、ふいに「ソロどのォ~~!」と大声でソロを呼ぶ野太い声が聞こえてきてソロとホフマンはそちらに体ごと向き直った。見ればライアンが何か叫びながら血相を変えて走ってきている。
「どうしたんですか?」
「ハァ、ハァ。じ、実は先程、トルネコどのが、えらく高級なツボを割ってしまいまして! 住人の方が大変お怒りで、弁償しろとトルネコどのを縄で縛ってしまわれたのです! どうかソロどの、お越し願えませぬか!?」
「……またトルネコさんか……。」
 はぁ、と溜息をついてソロは目を覆った。横ではホフマンがぷっと吹き出している。
「困ったものだねえ、ソロ。」
「まったくです……。」
「さあ、急ごうか。おれも一緒に行くから。」
「すみません、ホフマンさん。お手数かけます。ライアンさん、案内してください!」
「あいわかった!」
 自信満々に頷いたライアンだったが、通りに出るやいなや足を止めた。
「……おや、どちらの道でしたかな……。すまぬ、拙者、方向音痴で。」
「えーっ!? そりゃないですよライアンさん!!」
 ソロは今日何度目になるかわからない盛大な嘆きを上げ、ホフマンは可笑しそうにけらけらと笑った。

 苦労あり笑いありのソロの日々は今日も続く。
 デスピサロにたどり着くのはいつになるかわからないが、この厄介で頼もしくて気のいい仲間たちがいてくれるかぎり、ゆく先は光に満ちている。
 何の根拠もないけれど、ソロはそう確信したのだった。

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