グラディオと釣りをする話

少年時代、折り合いの悪かったノクトとグラディオが釣りを通して距離を縮める友情話。
釣りの時「たまにはオレに釣らせろよ」とグラディオがよく言うので、昔ははよく一緒に釣りをしていたのでは?と思って書きました。

グラディオと釣りをする話

 オールド・レスタからウェナス川を上流に遡っていくと釣り場がある。清流に恵まれ、生きのいいトラウトがよく掛かる絶好の川釣りスポットだ。
 そのすぐ近くに位置するメンブルムの標から釣り場のほうを見やって、プロンプトは暇そうに「そういえばさぁ」とイグニスに言った。
「今日はグラディオも釣ってんだねー」
「そうだな」
 ノクティスとグラディオラスが釣りに出て早(はや)二時間。その間イグニスは標に残って今朝狩った肉を燻製にする下準備に取り掛かっていた。同じくプロンプトも標に残って銃やカメラの手入れをしている。が、基本暇なのでとりとめのない会話がぽつぽつ浮かぶ。
「たまにさぁ、グラディオも一緒に釣りやってるよね。釣り、好きなのかな?」
「だろうな。それに、二人でのんびり話したいときもあるんだろう」
「なぁるほど」
 これまでノクティスとグラディオラスは何度か一緒に釣りをしていることがあった。しかし、二人で釣ったからといって収穫が二倍になったことはあまりない。イグニスの推測どおり、どちらかといえば緩やかな雑談に興じているのかもしれないとプロンプトは納得した。
 この位置からは木々の向こうに小さく二人の背中が見える。そちらを眺め、プロンプトはふと沸き上がった疑問をイグニスに尋ねてみた。
「ねえ、ノクトって昔っから釣り少年だったの?」
 するとイグニスは「どうだったかな」と首を傾げながら記憶を辿った。
「オレが初めてノクトに会った頃はそうではなかったと思うが、中学に上がる前にはもういくつかルアーを揃えていたと思うぞ。散らかった釣り道具を片付けるのを何度か手伝った覚えがある」
「そ、そうなんだ。イグニス、今も昔も大変だね~」
 『手伝わされた』と言わないところがイグニスの甘いところだ。今テントの中に散らかっているカードや菓子の食べがらも、この後いつもどおりイグニスが片付けることになるのだろう。
「まあな。いつも片付けてくれる者がいると思ったら大間違いだとは再三言っているんだが」
 イグニスはそう苦笑いしたが、結局イグニスが手伝ってしまうからノクティスの散らかし癖はもう治らないんじゃないかな、とプロンプトは真顔で思った。
「あー……、じゃあ、グラディオは? グラディオは昔からノクトの釣り友達だったのかな」
 するとイグニスはふと手を止めて、
「そういえば詳しくは知らないな。ノクトと一緒に何度か釣りに行っていたのは覚えているが、いつからか、というのは」
 と、考え込むように首を捻った。
「気になるのか?」
「あ、いや、気になるっていうかさ」
 プロンプトは顔の前で両手を振って否定する。
「ほら、グラディオってけっこうノクトに厳しいじゃん? 昔はノクトの剣のコーチ役だったらしいし。だけど釣りはよく一緒にしてるっていうのが面白いなと思ってさ」
「はは、確かにそうかもしれないな。本人に聞いてみたらどうだ?」
「ええ~?」
 イグニスの提案にプロンプトはあからさまに尻込みした。釣り場の二人をチラッと見て、もじもじと小声で理由を並べる。
「そのー、なんか、間に入りづらいっていうかー、今邪魔したら悪いかなーっていうかー……?」
 元来人見知りのプロンプトらしい健気なためらいに、イグニスはふっと頬を緩めた。そしておもむろに手を拭いて作業を中断すると、クーラーボックスを開けてタッパーを取り出した。
「釣りの途中に食べてもらおうと思って作っておいたサンドイッチだ。見ての通りオレはベーコン作りで忙しいから、二人に届けてやってくれるとありがたいんだがな」
「…………!」
 思わぬ展開にプロンプトは目を見開き、差し出されたタッパーを凝視した。この男、いったいどこまで用意が良いのだろう。そしてどれだけ気が利くのだろう。
「どうした? お前が行かないなら、オレが行くが?」
「あっ! いや! 行きます! 行かせていただきますっ!」
 慌ててプロンプトがタッパーを掴み取るとイグニスは満足げに微笑んだ。
「じゃあ頼んだぞ。多めに作っておいたから一緒に食べてくるといい」
「うん! ありがと、イグニス!」
 イグニスにぽんと肩を叩かれ、プロンプトはタッパーを抱えて颯爽と標から跳び下りた。

 

「おお、こりゃうまいわ」
「ナイスタイミングだプロンプト!」
 タッパーを持っていくとちょうど小腹が減ってくる時間帯だったようで、ノクティスとグラディオラスはすぐに蓋を開けて食べ始めた。
「お礼ならイグニスに言ってよ、わざわざ作っておいてくれたんだってさ」
「ははは、相変わらず気が利くなぁイグニスは」
 グラディオラスは肉厚のカツが挟まれたサンドイッチを掲げて豪快に笑った。
 イグニスにきっかけをもらってすんなりと二人の間に入ることができたプロンプトは、サンドイッチをつまみながら先程の疑問を尋ねてみた。
「ねえ、ノクトとグラディオは昔から釣り仲間だったの?」
「まぁ、そうだな。初めて一緒に釣りしたのは、ノクトがまだ小学生の頃だったぜ」
「そんな前からなんだ!? へええ、その話、聞きたい!」
 プロンプトが興味津々に身を乗り出すと、食べるのに忙しいノクティスは面倒そうに言った。
「グラディオが話してやれよ」
「ん? まあいいけどよ。……おい、野菜も食えよ」
「む……」
 サンドイッチの間から器用に葉野菜だけ取り除こうとしたところを見咎められ、ノクティスは渋々野菜ごと頬張った。
 それを見届けてから、グラディオラスは少し目線を空に向けるようにしてプロンプトに話し始めた。
「懐かしいな……あれは確か、オレが十三くらいの時だった」
 昔話を始めたグラディオラスの横顔は、いつもより少しだけ穏やかだった。

 

「はああっ!」
「ダメだ、全然腰が入ってねえぞ! もう一回!」
「せやあっ!」
「遅い! 背中ががら空きだぜ!」
 カン、カン、と演習室に響く木剣の剣戟。オレの繰り出す力に押し負けたノクトの木剣は、しばしば弾かれて演習室の壁際まで飛んで行く。
 よろめきながらそれを拾い上げ、幼いノクトはぜえぜえと肩で息をした。額からは拭っても拭っても汗が滴り落ちている。木剣を支えに立ち上がり、ノクトはじろりとこちらを睨んだ。
 当時、オレはノクトの剣の指南役を任されていた。後になって思えば、さほど歳も違わないのにそんな役を任されるということは、剣を教えるだけでなく良き友になれという意味合いもあったに違いない。だがそこまで考えが及ばなかった当時のオレは、そんな目で睨んでくるくせに弱っちいノクトのことが気に食わなかった。嫌いだった、と言ってもいい。
 剣に気持ちが乗っていないのがあからさまに伝わってくるし、ひどい時には稽古の真っ最中に「おやつの時間だから」と勝手に帰っていったこともあった。
 オレもまだガキだったから、今以上に短気で狭量だった。ノクトの反抗に苛立ち、「おめぇにはがっかりだ、この根性なしが!」とたびたび声を荒げていた。
 が、その日のノクトはいつも以上に集中力を欠いていた。剣にまるで腰も心も入っていない。ハァ、と短く溜息をついてオレは投げやりに言った。
「やめだ、やめ!」
「え?」
 ノクトは不審そうにオレを見上げた。決して甘やかすために早く稽古を切り上げるわけではないと理解している顔だった。
「おいノクト。最近のお前には集中力の欠片も感じられねえ。今日は特に、な。そんなんじゃ身につかねえどころか怪我すんのがオチだぜ」
 図星だったらしく、ノクトはかっと顔を赤らめていっそうオレを睨んできた。
「別に……集中してるし」
「うるせえ! やめっつったらやめだ!」
 オレは怒鳴った。
「テネブラエでも色々あって大変だったのはわかってる。だがな、そんなしゃきっとしねえまま稽古に来られても……オレも困んだよ」
 やる気のない相手にものを教えることは困難を極める。まして剣術だ。防具を付けているとはいえ、一歩間違えれば王子に大怪我をさせかねない危険な稽古なのだ。中途半端な心構えでいられては、オレも教える側としてこれ以上やりようがなかった。
 ノクトがここのところ集中力を欠いている理由ならオレにもわかっている。ノクトは以前ホタルの鑑賞に行った帰りがけにシガイに襲われ、何人もの従者が犠牲になるさまを目の当たりにし、自身も大怪我を負った。奇跡的に命をとりとめ怪我はやがて治癒したものの、心に負った傷はそうそう治せるものではなかった。
 そんな折、体調のすぐれないノクトの療養の意味も含めてテネブラエにしばらく滞在することになった。いったん笑顔を取り戻し始めたノクトだったが、そこでもニフルハイム帝国に襲われるというショッキングな事件に遭遇し、それから帰国して数週間経った今もなおノクトは塞いでいることが多い。
 なんと気の毒な、とオレは思う。こんな細っこい子供になぜ運命は困難ばかり押し付けるのか。もう無理して剣など修めなくても良いのではないか。……ただし、それが普通の子どもなら。
 残念ながらノクトは普通の子どもではない。将来はルシスを背負って立つ一国の王子であり、オレが生涯仕え命を賭して守るべき存在だ。それなのにこうも毎日頼りない顔を見せられてはたまったものではなかった。
「ちったあ頭冷やせ。気ぃ引き締めて、来週仕切り直しだ」
 オレがそう言うと、普段はあんなに稽古を面倒がっているのにノクトは悔しそうに唇をへの字に曲げた。しんどいのは嫌だが、見放されるのはもっと嫌らしい。
「……わかったよ」
 不服そうに言って、ノクトは剣を置いた。
 週末を挟んだところでノクトの調子が戻るとも思えないがな、と思うと舌打ちしたい気分だった。
 と、そのとき、防具を脱いでいたノクトのポケットから何かキーホルダーのようなものがころりと床に落ちた。
「あ!」
「ん? なんだそりゃ」
 オレが聞くとノクトは血相を変えてそれを拾い上げた。そして隠すように後ろ手にそれを握った。まるで見られたくない秘密がばれてしまったかのような挙動不審さだった。
「……見せろ」
「やだ」
「稽古のときにポケットに物を入れんなって前に言っただろ。何かの拍子に体に刺さったらどうすんだ」
「……入れっぱなしになってただけだし」
 わざとじゃないし、とノクトは苦しい言い訳をぼそぼそ言った。そして渋々オレのほうへ手を出して拳を開くと、そこに乗っかっていたのは綺麗にカラーリングされた小さな人形のようなものだった。
「これは……ルアー!?」
 完全に予想外の物が登場してオレはつい素の声が出てしまった。するとオレの反応が意外だったらしく、ノクトもまた素の声に戻って、
「わかるの?」
 と聞き返してきた。
「おう。これは……ニードル1000・サボテンダーじゃねえか」
「! そう、それ!」
 途端、ノクトの目が輝いた。さっきはあんなに隠そうとしていたのに、今度はオレに手を伸ばして積極的に見せてくる。ノクトはオレが初めて目にするような、年相応のやんちゃさが垣間見える面構えをしていた。
「テネブラエで城のおじさんたちが釣りに連れて行ってくれて、そのときにもらったんだ」
「へえ、釣りに? そいつは良かったな。でも、なんで隠そうとしたんだ?」
 そう聞くと、ノクトは「それは……」と口ごもった。
「ルシスでは色々、言われるから……釣りなんか王子がやることじゃない、とか、池は危ないから駄目、とか……」
「ははーん、なるほどなあ」
 まるで監視するかのように常にノクトの行動に目を光らせている侍従たちの顔を思い浮かべ、オレはさもありなんと頷いた。
 サボテンダーをかたどったルアーをじっと見つめ、ノクトはぽつりと呟く。
「釣り、面白かったのに……」
「また行きたいのか?」
 うん、とノクトはこくりと首を縦に振った。
「そうか……」
 実は、オレもひと目でルアー名を言い当てる程度には釣りが好きだ。王城の近所にも何箇所か釣り場があるのを知っている。
 まあ中には子どもが行くには危険な池なんかもあるが、きちんと整備された公園の堀など安全に楽しめる場所もある。きっとノクトの侍従たちはそういうことを知らず、十把一絡げに「水辺は危険」と言っているのだろう。それは乱暴すぎる決めつけだ。
 それに釣りは良いものだ。釣れれば楽しいし、釣れなくても晴れた日にたまにぼーっと釣り糸を垂らすだけで心が和む。もしかしたらノクトの気分もいくらかは晴れるかもしれない。
 少し考えてから、オレは言った。
「じゃあ、行こうぜ」
「えっ?」
「釣り。行きてぇんだろ?」
 ニッ、と唇の端を上げてオレが言うと、信じられない台詞を聞いた、というふうにノクトは目を見開いた。
「オレが一緒に陛下に頼んでやる。どうだ?」
「行く……絶対行く!」
 俄然、ノクトの瞳は輝いた。いつもの無気力な目つきはどこに行ったと聞きたくなるくらいの舞い上がりようだ。
「よし、じゃあ決まりだな」
「あ……でも道具は」
「オレのを貸してやるよ。ルアーもいろいろあるぞ、ポップペック・チョコボにボンバー・ボム」
 ゼロに近かったノクトのテンションが、ルアー名を挙げるたびにぐいぐい上がっていくのが見てわかる。
 今ノクトに必要なものは休息ではなくこういったちょっとした娯楽なのかもしれない、オレは思った。

 

「来てる、来てるぞ!」
「お、重い……!」
「すげぇのが釣れたな、ノクト!」
 青い空、穏やかな風。天気は絶好の釣り日和。ロッドを握るノクトは稽古中にも見せないような必死の形相で獲物と戦っていた。
 レギス陛下に釣りの許可をいただくことは予想よりも難しくなかった。危険のない場所を選ぶこと、そしてオレがきちんと監督することを条件に、むしろ「本来なら父親である私が連れて行ってやるべきなのだが」とノクトのことをよろしく頼まれてしまったのだ。
 公園内の池に着くやいなや、ノクトはオレの持ってきた数種類のルアーに目を輝かせ、これの名前は、それは何が釣れるの、とオレをしばらく質問攻めにする勢いだった。
 そしてひと通りタックルの説明をして釣りを始めたが、当然最初はなかなか釣れなかった。ところが当たりがない間もノクトは文句ひとつ言わず、リールを巻くだけでも楽しい様子であれやこれやと試すのに興じていた。
 そんな折、ちょうど一時間ほど経った頃。ノクトのロッドが小刻みに揺れて、その後大きくしなったのだった。
「うわっ!?」
 引きの強さにノクトは危うくロッドを取り落とすところだった。
「掛かったな! ノクト、少し巻いてフックしろ!」
「わかった!」
「よーし、ラインのテンションを保つんだ、緩まねぇよう、でも切れねぇようリールを巻け! あんまり魚が暴れたら、ロッドをいなして少し待て!」
「やってみる!」
 そして今ノクトは獲物と引きつ引かれつのファイトを繰り広げている。ノクトの踏ん張りでようやく魚影が見える近さになった。
「いいぞ、その調子だ! タモ用意しとくぜ!」
 ノクトの技術と力では水際で逃げられてしまうかもしれない。オレは手すりを跳び越えてタモ網を構えた。
「ううう、重いぃ!」
「もう少しだ、がんばれ!」
「負ける、もんかぁぁぁっ!」
 バシャバシャと獲物が水面を跳ねるように近づいてきた。タモ網が届く距離に来たとき、すかさずオレはそいつをすくい取る。
「おりゃあっ!」
 ザバァ、と派手な水しぶきを立てて網は獲物を捕獲した。
 間近で見ると、そいつは五十センチに届きそうなほどのサイズだった。ここいらではかなりの大物を、ノクトは釣り上げたのだ。
「やったじゃねぇか、ノクト! 大物だ!」
 オレはノクトのほうへ戻り、魚をノクトに見せてやった。
「わあっ! すごい……!」
 疲れているのも忘れてノクトは駆け寄ってきた。網の中でびちびちと跳ねる巨体を目を皿にして見つめている。
 その横顔が完全に十歳のガキのそれで、王城で見せる厭世的なスカシ顔との差があまりに大きすぎて、一緒に歓声を上げながらもオレの胸はツンと痛んだ。……コイツはきっと、本来こういう顔のヤツだったのだ。
「ねえグラディオ! これ、何て名前の魚!?」
「こいつぁアルストバスだな。王都の近くにクラストゥルムって池があんだけどよ、そっから昔持ち込まれたのが繁殖してるらしいぜ」
「へえぇ、アルストバス……!」
 ノクトは満面の笑顔になってその名前を何度か繰り返し呼んだ。それだけでもう、どんなに嬉しいのか伝わってくるというものだ。
「ま、でもリリースしなきゃならねえけどな」
「逃がすの?」
「おう。普通、バスは食わねえぞ」
「そう……」
 ノクトは目に見えてしゅんと肩を落とした。そしてぽつりと呟く。
「見せてあげたかったな……」
 誰に、は聞くまでもなかった。レギス陛下だ。オレも初めて釣った大物は喜び勇んで親父に見せに行ったっけな、と懐かしい記憶が蘇る。
「……だったらよ、食ってみるか?」
「えっ? でも、食べられないんじゃあ……」
「食えねえわけじゃねえよ、普通『食わない』だけでな。ここの池は水もきれいだからそうマズくもねぇかもな? イグニスあたりに見せりゃ喜んで料理するぜ」
「あはは、想像つく」
 未知の食材に喜々として包丁を光らせるイグニスが簡単に目に浮かんだらしく、ノクトはころころと笑った。
 そうして、結局獲物は持ち帰ることになり、オレたちはクーラーボックスに魚の巨体を押し込むようにして収めた。
 その後はというとうんともすんとも当たりがなく、さっぱり釣れなかった。さっきのはビギナーズラックというやつだったのかもしれない。
 それでもオレとノクトはぽつぽつと他愛のない話をして緩やかな時間を過ごした。
 好きな食べ物、嫌いな食べ物。剣と勉学。行きつけの釣具屋。購読している本。お気に入りの音楽。
 そのどれもが大した内容も伴わないものだったが、オレはこのとき、今までノクトのことを知っているようでいて何も知らなかったのだとぼんやり気付かされた。
 以来、オレとノクトは都合が合えば釣りに出掛けるようになった。釣れる日には魚の数や大きさを競って勝負をし、釣れない日にはただのんびりと雑談をした。
 ノクトが小学生の頃は、
「グラディオ、昨日かけっこで一位になったよ」
「今度の担任の先生、宿題多いから嫌いだ」
「クラスに変わったやつがいるんだ。いつもカメラ持ってるメガネのやつでさ」
 中学に上がると、
「グラディオ、何か面白い漫画ない?」
「イグニスに朝っぱらからくどくど説教されてもう最悪」
「……なあ、身長って牛乳飲めば伸びるんだっけ?」
 その時その時で、普段王城ではしないような会話が比較的素直に飛び出した。
 そして同時にオレとの剣の稽古にも身が入るようになり、以前ほど無気力な態度をすることも少なくなっていった。
 ノクトが高校に入る頃にはお互い多忙になったこともあり一緒に釣りに行く頻度は減ってしまったが、その習慣は消えずに残っている。
 そうして、気が合わない師弟関係だったオレたちは釣り仲間を経て今に至る、というわけだ。

 

「ま、腐れ縁ってやつだな」
 プロンプトにひと通り話し終わったグラディオラスは大きな肩をすくめてみせた。その横ではノクティスがげんなりした顔で、
「お前すげぇ細かいとこまで覚えてんのな……」
 と、グラディオラスに喋らせたことを若干後悔しているような声音でぼやいた。
 しかし詳しい話を聞けたプロンプトとしては大満足である。嬉しそうに手を叩いてグラディオに言った。
「ありがと、グラディオ! すごい面白かったー、聞けて良かったよ!」
「ん、そうか? 昔話なんかの何が面白ぇのかわからねぇが、まあそれなら喋った甲斐があったってもんだな」
「ね、お礼にさ、二人の釣り写真撮るよ!」
「はぁ?」
 グラディオラスは「何だそりゃ」と言わんばかりの顔で聞き返したが、すでにプロンプトは撮る気満々だ。
「だってさ、昔も今も一緒に釣りやってるなんてすごいじゃん? 今写真に残しておけば、きっと将来見返したときにまた昔話できるよ! オレたち腐れ縁だなー、ってさ!」
 絶対良い思い出になるから、とプロンプトはカメラを手にして「ほら、ほら!」と二人を促す。グラディオラスは苦笑いしてノクティスを肘で小突いた。
「だってよ、ノクト。せっかくだから撮ってもらおうぜ?」
「ったく、しょーがねーなぁ」
 ぶつくさ言う割にはあまり嫌そうでない表情で、ノクティスは立ち上がってロッドを手に持った。そこはかとなくかっこよさげにポージングしていることからもまんざらでもない様子が窺える。
「じゃ、オレは今日の超大物を持つか」
 グラディオラスは釣り用のクーラーボックスを開けて、丸々と太ったアルゴス・サーモンを抱え上げた。
「おおー二人ともいいねいいね~! よーし、じゃ、撮るよー!」
 お気に入りのカメラを構え、プロンプトは二人に言った。川辺にカシャ、とシャッター音が響く。
 撮影後、三人でカメラを囲むようにして画像を覗き込みながら、グラディオラスはうんうんと頷いた。
「おおっ、いいじゃねぇか」
 ノクトも同意して笑顔になる。
「ほんとだな、オレかっこいいじゃん!」
「おい、オレのほうがかっこいいだろ。あの魚すげー重てぇんだぞ」
「あはは、どっちもかっこいい釣り師だよ!」
 プロンプトも嬉しそうに笑い、カメラの中の二人に目を細めた。
 写真に映るのは、陽の光を受けてきらきら輝くウェナス川の清流を背景に、満面の笑顔で得意気にポーズをとっているノクティスとグラディオラスの姿。
 幾度となく衝突も繰り返して築き上げた二人の友情が滲み出るような、そんな最高の一枚だった。

 

おしまい

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