HORIZON

FINAL FANTASY IV
Another Future

10. どこにも行かないで(2)

- Cain Side -

 大粒の涙を流し、ポロムは泣いた。
 その姿はまるで悲しみを涙に乗せて吐き出しているようだった。
 それでいい、と俺は思う。
 強がりな彼女のことだ、パロムの前では涙を見せなかったに違いない。
 しかしどこかで自分の感情を解放してやらねば、それはしこりとなって己の胸に留まり続ける。
 そしていつか歪みとなって己を蝕む。
 だから今、せめて俺の前では思う存分泣いてくれ。
 その涙はきっと強さに変わる。

 どれくらい経っただろうか。
 彼女の嗚咽がおさまり始めた頃、空の色には橙が混ざり始めていた。
「……少しはすっきりしたか?」
 俺が問うと、ポロムは涙声で「はい」と頷いた。
「溜め込んでたものを……ひっく、全部発散したような気分です」
「それは、何よりだ」
 ポロムは赤くなった目を細めて少し恥ずかしそうに笑った。
 そこには先程までは失われていた生気が宿っている。
「あの、カインさん。ありがとうございました」
「俺は突っ立っていただけだ。何もしていない」
「でも、わたしにちゃんと泣かせてくれました」
 ポロムは瞼の端に残った涙の雫をぴっと振り払った。
「寂しくなくなるわけじゃないけど……もう大丈夫、っていう気持ちになれました」
「そうか」
 彼女につられて俺もふと微笑む。
 本当の意味でパロムとの別れを乗り越えるにはもう何日か掛かるかもしれないが、まずは第一歩を踏み出せたということだろう。
 安心して、俺は気が緩んでしまったのかもしれない。
 ふと、口からこんな言葉が滑り出た。

「大丈夫だ、君には俺がいる」

「……え?」
「ん……?」
 思わず、俺たちは顔を見合わせた。
 即座に、俺は自分の台詞がいかに意味深だったかに気付く。
 昨日エッジたちに曖昧な言動は慎むよう言われたばかりなのに、なぜこんな台詞を言ってしまったのか。
 これはさすがにアウトだと、この俺でも分かるというものだ。
 驚いたようにこちらを見上げているポロムの頬に朱が差していることが何よりの証拠だ。
「カインさんは……」
 俺が次の句を探せずにいる間に、ポロムは小声で言った。
 そしておずおずと俺の袖をちんまりと掴み、遠慮がちに問うてきた。
「どこにも行かないで、くれますか?」
 不安に揺れる、まるで必死な子犬のような目で。
「…………!」
 しばしの静寂が流れた。
 秋風が、ざざっと草葉を揺らしていく。
「……って、わたし、何言ってるんでしょう!? い、今の無しです! すみませ……」
 急に我に返ったらしいポロムはばっと俺の袖から手を放した。
 が、その手を逃さぬよう掴んだのは、他ならぬ俺の手だった。
「……行かないさ」
「カ……カインさん!?」
「どこにも行かない。約束しよう」
 ああ、いったい俺は何をやっているのか。
 エッジの言葉を借りれば「狡い大人」だ。
 だが、どうにも俺にはこの少女を悲しませることなどできないらしかった。
 彼女が望むかぎり、それに応えていきたい――そう思った。
 その時再び強い風が吹き、空の薄雲が晴れた。
 試練の山の頂上から、遠く地平線の向こうへと沈んでゆく真っ赤な太陽が見える。
 それはかつてここで見たどんな夕日よりも美しく、神々しかった。
「きれい……」
「ああ……凄いな……」
 思わず息をのむ。
 そして、俺はポロムの小さな右手を強く握り直した。
「!」
 瞬間、ポロムは身を固くしたが、すぐに同じように強く握り返してきた。
「……パロムはもうトロイアの城に入ったでしょうか」
「ああ、おそらくな。今頃弟子と顔合わせでもしているかもしれん」
 ポロムはすうっと息を大きく吸い込んだ。
 そして太陽に向かって。
「パロムーっ! 頑張ってねーーーっ!!」
 思い切り叫んだ。
 この声はきっと、遠く旅立っていったパロムの耳にも届いていることだろう。
 俺たちはその後も、手を繋いだまま燃える夕日をしばらく眺めていた。

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