HORIZON

FINAL FANTASY IV
Another Future

19. 我侭(2)

- Porom Side -

 その日、ミシディアは朝から大わらわだった。
 突然轟音が響いてきたかと思うとバロンのエンタープライズとエブラーナのファルコンが着陸したのだから大騒ぎになるのも当然だ。
 しかも降りてきたのはバロン王のセシルさんとエブラーナ王のエッジさんなんだからただごとじゃない。
 わたしは友人たちと年甲斐もなく飛空挺見物に行き、あれこれと予想話に花を咲かせた。
 そんな折だった、カインさんの姿を見かけたのは。
 わたしは家へと戻る途中で声を掛けようと思ったのだけど、カインさんがあまりに焦った様子だったからわたしは言いかけた挨拶を喉もとで飲み込んだのだ。
「あんなに急いで、どうしたのかしら……?」
 不思議に思ったわたしは、こっそりとカインさんを追いかけた。
 そして長老の館に顔パスで通れるわたしは、盗み聞きをするつもりはなかったのだけど、つい扉の裏側に陣取ってしまった。
 漏れ聞こえてくる恐ろしい話にわたしの身体に戦慄が走る。
「四天王の融合体<ゲリュオン>が一週間後に……!?」
 四天王、その恐ろしさはスカルミリョーネやカイナッツォと戦ったことのあるわたしもよく知っている。
 それが蒼き星を滅ぼすほどの力を備えて復活するだなんて!
 予想だにしなかった話に手が震えた。
 でも。
『……ごめん、ローザは……参戦できない』
 セシルさんの声が聞こえた時。
 わたしの中の何かが騒いだ。
『バーカ、謝るようなことじゃねーだろ。ローザひとり抜けたくらいでこのエッジ様はやられねーぞ』
 エッジさんったら、セシルさんに気を遣ってこんなこと言ってるんだわ。
 白魔法抜きで戦うなんて無謀すぎるもの!
『まいったのう……ローザ殿の代わりが務まるような白魔道士などなかなか見つかりはすまい……』
 長老の言葉に、わたしの胸がドクンと動く。
 参戦できないローザさんの代役。
 わたしの知る限りローザさんの代わりになれるほどの力を持った白魔道士なんてミシディアにはいない。
 優秀な神官が治めるトロイアにもアレイズやホーリーまで扱える白魔道士はいないと聞く。
 わたしは自分の掌を見つめた。
 ケアルガ、アレイズ、ホーリー。
 幻界で血のにじむような努力をして習得した魔法。
 わたしなら……わたしならローザさんの代わりになれる?
 そこまで考えた時、すでにわたしは扉を開け放っていた。

- Cain Side -

「わたしが行きます!!」
 そう言い放ったポロムに俺は硬直した。
 なぜポロムがここに?
 いつから聞いていた?
「気配はあったぜ。カインが来たすぐ後からな」
「エッジ、気付いていたのか」
「いつかは話さなきゃいけねーんだ、聞かれてまずいことはねーだろ」
 エッジの言い分ももっともだが、俺は内心舌打ちをした。
 正義感の強いポロムが聞けば必ず自分が行くと言い出すに決まっている。
 彼女を戦いの最前線などという一番危険な任務になど巻き込むわけにはいかないのに。
「ポロム……しかしお主はまだ若すぎる上、経験も浅い。修行とは違うのじゃぞ?」
 長老の意見にもポロムは表情を変えない。
「わたしだって初めてセシルさんに同行した時は五歳でした! それに今だって、ローザさんやリディアさんが月でゼロムスを倒した時の年齢とそんなに違いません!」
「でもポロム、危険だよ? ローザの代わりをしようと思ったらずっと高度な魔法を唱え続けなきゃいけないんだ」
「セシルさん、誰かがやらないといけない役なんです。ローザさん同様に、ケアルガやアレイズ、ホーリーを使えるわたしが適任ではありませんか?」
 ポロムの言うことが正論だからか、それとも気圧されたのか。
 セシルはそれ以上うまい反対の言葉を見つけることが困難なようだった。
「しかし、のう……」
 なおも渋い顔の長老にポロムは声を震わせる。
「長老。平和になった世の中で、わたしがどうして幻界で修行をしようと思ったのか、ご存知ですよね……?」
 ポロムは胸に手を当てて声を強める。
「単調な日々に飽き飽きしたというのも確かにあります。でも! 何よりわたしは、自分の無力さを嘆くようなことはもう嫌だったんです!!」
「無力さ……?」
 問うたのはセシルだ。
「はい……バロン城でカイナッツォの呪いによって壁が迫って来たあの時……無力だったわたしとポロムには石になって壁を食い止めるしか手がありませんでした。でも、もっといい方法があったはず……誰も犠牲にならずに皆を救える方法が……! だから、いつかまた危機が訪れた時にもう二度と悔しい思いをしたくなくて、わたしは修行に出たんです」
 勢いよく話し続けたポロムは一呼吸置いて、続けた。
「……きっと、運命だったのですわ。今こそがまさにその危機。わたしはこの時のために修行をしてきたんじゃないでしょうか」
 普段のおっとりした様子からは想像もできないほどの説得力のある声音でポロムはそう締めくくった。
 長老たちが顔を見合わせる。
「ふむ……一理あるやもしれんな」
「確かにな。ポロムちゃんほどの助っ人はなかなかいねーだろ」
「ああ。ポロムもそこまで言ってくれるんなら……ねえ? カインも賛成だろう?」
 セシルに話を振られて俺は腕を組む。
 そして短く俺の意見を言った。
「駄目だ」
「…………!!」
 ポロムの表情が引き吊ったのが分かった。
「どうして、ですか」
 信じられない様子で震える声でポロムが言う。
 まるで俺ならば真っ先に賛成してくれると思っていたかのような表情だ。
「危険すぎる。結界の中に入って戦うんだぞ?」
 反対すれば、ポロムは泣いてしまうだろうか。
 だが俺の危惧とは正反対に、ポロムは眉を吊り上げてはっきりと啖呵を切った。
「わたしだって皆さんのお役に立ちたいんです!!」
 そして俺をまっすぐ勢いよく睨んでまくしたてる。
「じゃあ訊きますけど、それなら誰がローザさんの代わりを務めるって言うんですか! 白魔法抜きでそんな強敵と戦うなんてそれこそ危険すぎます! 正気の沙汰とは思えませんわ!!」
 我の強い物言いに釣られ、俺の語気もつい強くなる。
「ああそうかもしれん。だがな、いくらお前が高等な魔法を使えるとは言っても修行と実戦は違うんだ! ローザの白魔法は基礎力も十分にあったが、多くは実戦の中で磨かれたものだ。激戦の中でも瞬時に判断を下し、敵から攻撃を受けようとも魔法の詠唱を続けることができる。ケアルガやアレイズが使えるからローザと同じ? そんなわけがあるものか!!」
「同じだなんて言ってないでしょう! 確かにローザさんには及ばないかもしれませんわ、でもその半分でも力になれる可能性があるのに蚊帳の外なんて耐えられません!!」
「お前は実戦の恐ろしさを分かっていない! 俺たちは月の戦役を戦い抜いてきた五人だ。こことは比べ物にならないほどの強敵をいくつも倒しながら過酷な状況の中で戦い続けてきた経験がある! お前は俺たちとは違うんだ!!」
「自分たちだけが別格とでもおっしゃりたいんですか!? 思い上がりもはなはだしいですわね! とにかく、わたしは絶対に同行させてもらいますからね!!」
「冗談じゃない、絶対に駄目だ!」
「いいえ、いくらカインさんに言われたってこればっかりは譲れません!」
「ふざけるな、遊びじゃないんだぞ!?」
「分かってます! わたし本気で言ってるんです!」
「なぜそこまで強情になる!?」
「カインさんこそ!」
「俺は現実を言っているだけだろうが!!」
「わたしだって現実的な問題を考えて言ってます!!」
「クッ……もういい、勝手にしろ!!!」
「ええ! 勝手にさせていただきますっ!!!」
 ……そうして、セシルたちの目の前で口論を繰り広げた俺たちは、真反対の方向へずかずかと出て行った。

 まったく、ここまで強情だとは。
 俺はくさくさしたまま廊下をずんずん歩く。
 しかし狭い館では当然のことだがすぐにポロムと鉢合わせてしまった。
「……ふんっ!」
 ポロムはあからさまに口をへの字にして来た道を引き返していった。
 クッ……なぜこんな羽目に……。
 確かにポロムが高度な魔法を扱えるのは大変助かることだが、所詮彼女の実戦経験など幻界の敵相手がいいところだろう。
 だが今回の敵は四天王、しかも俺たちでさえ敵うかどうかわからないような未知の融合体ゲリュオンだ。
 彼女は未曾有の強敵との激戦の中で冷静的確に魔法を使うことができるのか?
 足をすくませず、気圧されることなく詠唱などできるのか?
 一撃で死に至らしめるような攻撃を避けることなどできるのか?
 やる気や正義感だけではどうにもならない経験の差というものは、大きい。
 現実は残酷だ。
 しかし……ついポロムの勢いにのまれて棘のある言い方をしてしまった。
 セシルやエッジならもっと上手くあしらっただろうに。
 これでは嫌われてしまっても仕方がないかもしれんな……。
 少し頭を冷やさねば。
 俺は風通しの良いベランダに出た。
 ポロムの怒った顔を思い出すと、苛立ちの中にも妙なうら寂しさが生まれ、俺はひとり「はぁ」とため息をついた。
 と、そこに突然声が掛けられた
「辛気臭ぇツラしてんじゃねーよ」
 振り向くと、そこには腕組みしたエッジと苦笑顔のセシルが立っていた。
 やつらの目の前で醜態を演じてしまったことが悔やまれる。
「カイン、さっきはちょっと言い過ぎだったよね」
 宥めるような言い方でセシルは俺の隣まで進み出た。
「む……だが少々強めに言わんとあの頑固者は聞かんだろうが」
 自分の非を認めつつもそう反論すると、エッジが背後で大袈裟にため息をついた。
「ったく……相変わらずしょーがねーヤツだな、オメーはよ」
「……何だと?」
 以前恋愛オンチだの何だのと言われたのを思い出し、俺はエッジに向き直った。
「だーかーら! オメーはいつも言葉が足りねーんだよ!!」
 面倒くさそうにエッジが言う。
「言葉……?」
「ひとこと言ってやりゃあいいじゃねーか。『お前のことが心配でたまらないんだ』ってよ!!」
「…………!!」
 エッジの青灰色の目が射抜くように俺に視線を投げかける。
「さっきの言い方じゃあ、オメーがまるっきりポロムちゃんのこと信頼してねーようにしか聞こえねー。けどよ、それだけじゃねーだろ? あのコのことが心配だから、巻き込みたくねーんだろ? だったらそう言ってやれよ」
 少し間を置いて、エッジは声のトーンを落とした。
「……気持ちってのは案外、言葉にしねーと伝わらねーもんなんだぜ?」
 諭すように言ったエッジの声には妙な重みがあり、俺は完全に言葉に詰まってしまった。
 理由は分かっている。
 エッジの言うことがすべて的を得ていたからだ。
「……クソッ!」
 かっと自分への苛立ちがつのり、俺は柵をドンと叩く。
 その腕を掴んだのはセシルだ。
「……カイン、君がポロムのことを心配しているのはよく分かった。ポロムに実戦経験が乏しいのもその通りかもしれない。でも、それだけで彼女を戦力外にしてしまっていいんだろうか?」
「セシル……」
 親友の穏やかな声音に俺の感情が幾分おさまる。
「僕らは君が言った通り、月の戦役を戦い抜いた実戦のプロだ。でもそれは何も攻撃だけに限ったことじゃないだろ? 今までだって、ローザやリディアをかばいながら戦ってきたじゃないか。だったら、僕らがポロムを守りながら戦えばいい」
「俺たちが、ポロムを守りながら……?」
「そうだよ。今の君になら……できるだろ?」
 その言葉に、苛立っていた俺の頭はすうっと冷めていった。
 今の俺なら……闇に打ち勝った今の俺なら。
 大切な人をかばいながら戦う『守る力』を持っている、と……?
「フッ……さすがだな」
「え、さすがって……何が?」
 月の戦役でもひたすら敵の攻撃を自分にひきつけ、仲間をかばう役目を率先して担ってきたセシル。
 誰かを守るということを第一の信念として持つパラディンの考え方の前では、俺の独りよがりな我侭など小さな氷のように溶けてしまった。
「さすがパラディンだ、と思ってな」
「え、え??」
 オロオロし始めたセシルの横でエッジがにやりと笑う。
「さ、分かったんならさっさと追いかけて謝ってきな」
 返事の代わりに俺はひとつしっかりと頷く。
 まったく、俺というやつは我ながらどうしてこうも不器用なのか。
 これではポロムに愛想を尽かされてしまっても無理はないぞ。
 器用なふたりに感謝しながら俺はすぐにポロムの姿を探し始めた。

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